包丁砥ぎ器は、全く売れなかった。惨敗であった。二人の心に、濃霧が立ち込めた。「風は全く吹かない。見て、家の中は在庫の山よ」「見なくてもわかるよ。高々と積み上げられているんだから」「とんでもない羽目に陥ってしまったみたいね」「ああ…。銀行に同行してくれて、融資の書類が受理されたのは事実だけど、開発事態は一向に進んでいないから、本当に融資の金額で事足りるのか検討もつかない」「融資だって決定したわけじゃないでしょう。書類が受理されただけなんだから。それなのに、請求書と一緒にダンボール一杯の商品が送られてくる。情け容赦なくね」「何の成果も出ていないのに、このコンサルタント料は法外だよ。馬鹿だったなあ」小谷野が、頭をかきむしった。「蟻地獄だわ。どうしよう」「抜け出すことだ。それしかない」時をあけず、弁護士事務所の門をたたいた。「巧妙ですね」弁護士の第一声であった。「確かに、コンサルタント料を受け取りながら一方で商品を売りつけるのは法的に抵触しないわけではないんですよ。報酬の二重取りということになるわけですから。しかしですね。それもパッシブエイトという会社の窮状を見かねて、あくまでも善意からやったことだと言われてしまえばそれまでですからね。コンサルタント料についても、強要されたわけではないんでしょう?」「はい」「そうだとするとねえ…」「コンサルタント料を半分でも取り戻すのは 難しいですか?」小谷野が、力なく尋ねた。「納得した上で支払ったわけですからね。返還を主張しても勝ち目はないでしょうね」