「その通りよ。ああ、完全に頭にきた。何がなんでもショー君にお庭をプレゼントしたいわ。どこか田舎の方に安い家がないかしらね。家なんてオンボロでもいいのよ。庭さえあれば」
「探せばあると思うよ。廃屋みたいな田舎家が。それなら、家賃も安いだろうし」
「確かにお金はすごく大変よ。固定費に外注費、露木さんへの支払いをすると、寝ないで働いても手元には大して残らないもの。でも、何とか回っているから、今なら家賃くらいは払えると思うの。その分、他で節約すればいいんだから。アルバイトの人たちにも利用してもらえるし」
「会社で借りるわけじゃないけど、福利厚生施設というわけだ」
「そうよ。皆で使えばいいのよ」
質素な田舎家を借りることは、決して贅沢ではなく、むしろ身を守るための本能的な選択だった。
そこは、理想郷に近かった。房総半島の山の中であった。六畳と四畳半、三畳の台所、バス・トイレ付きの古い一戸建てであった。広い庭が何よりの魅力だった。
息子は、持ってきたシャベルやバケツで早速、遊び始めた。(思う存分、遊んでね。もう、遠慮しなくていいのよ。ここは、ショー君のお庭だからね)。
小谷野と二人で縁側に腰を降ろした。魔法瓶のお茶が、玉露もかくあるか、と思うほどの美味しさだった。命が蘇る思いで深呼吸をした。
「すばらしい所ね」
「ああ、別天地、桃源郷だよ」