車に戻ると、遊び疲れた息子は、すぐに寝息をたてた。それなりに、満ち足りた寝顔だったが、二人の気持は暗かった。
「帰るのがあの家かと思うと、実際、ゲンナリする」
いつになく疲れた様子の小谷野であった。
「同感です。あそこは餌取りの場だから、家というより職場よね」
「ああ。それも、徹夜や仮眠が当り前の過酷な職場だ。だいたいね、夜の十一時過ぎに、眠ったショー君を起こさないように抱っこして、宅急便を出しに行くなんて、気違いじみているよ」
「じみているなんてもんじゃないわ。完全に、常軌を逸しているわよ。ローリング族の検問をしているお巡りさんがショー君を見てびっくりしていたじゃない」
「そうそう。そんなこともあった。お子さんを連れて、こんな時間に宅急便を出しに行くんですか。お疲れ様です。いやあ、我々の勤務もきついけど、そちらも大変ですなあって、すっかり同情されちゃったよ」
「あの時、つくづく思ったわ。こんな生活をしていて、今に芽が出るのかなあって」
「俺も思ったよ、笑って話せる日が果たしてくるのかなあってね」
「こうやってアクセクと生きている間に、ショー君はどんどん大きくなってしまう。今のうちにもっともっと絆を強くしておかなくちゃ。あせるなあ」
「それにしてもさっきはまいったね。もっとあしょぶんだよって言われて、胸をえぐられるようだったよ」
「私もさっきからずっとそのことを考えていたわ。子供は自然と遊ぶのが一番幸せなのよ。もうじき三歳よ。丈夫な身体の基礎を作ってあげなくちゃ。でも、うちは庭が全然ないし…」
「週末まで仕事の臭いがムンムンの家にいるんじゃ、ショー君が可哀想だし、こっちも精神的にもたないよ。平日は露木さんに預けっぱなしなんだから、せめて週末くらいは親子で過ごさないと、一生後悔するよ、きっと」