「先生、どうでしょうか」
「風邪のビールスが目に入ったんですね」
「それで、目は?」
「ビールスが体内から消えれば目も治って行きます。少し時間はかかりますけどね。お母さん、大丈夫ですか。心配いりませんよ」
「はい。あのう、後遺症の心配はありますか?」
「ありません」
「そうですか。ありがとうございます」
膝から崩れ落ちそうになった。
「良かった。救われた!」
小谷野が、泣きそうな声を出した。
(おんぶさえいやがるほど、束縛を嫌う子だってわかっていたのに、無理して預けて、こんなひどい目に遭わせてしまった。大馬鹿者だわ。ショー君、これからはずっと一緒にいようね。おめめ、ちゃんと治るからね。ご免ね)。その夜、二人の話し合いは、遅くまで続いた。
数日後、露木さんの腕に抱かれて、息子はご満悦だった。保育園生活は、わずか二週間足らずで幻のごとく消え去った。
「一人息子だから無理もないけど、甘過ぎるんじゃないの? 子どもにだって少しは我慢してもらわなくちゃね。稼いだお金がみんな消えちゃうじゃないの」
隠しておくわけにもいかず、保育園の件をあんこ堂の奥さんに話したところ、語気鋭くたしなめられた。たじろぐほどだった。