「子供を私物化する人間が多い中で、良い話だね。神は、常に社会貢献できる人間を求めているんだと思うよ。それで、そういう事を理解しているウーちゃんを駆け込み乗車で母親にしたんだよ。だって、マリアの受胎なんだろう?」
「アハハ。ああ、恥ずかしい。毒舌のマリアが受胎のマリアになりましたなんて半分冗談で言っていたんですけど、無事に生まれた事で、その時は、おぼろげながらも守られているんだっていう気持にはなっていました。でも…」
「そうとばかりは言っていられなくなってきた、そうなのかい?」
「はい。妊娠中、将来が不安で、近所の<あんこ堂>っていう和菓子屋の奥さんに、不安定な生活をしているから、ちゃんと育てられるか心配なんですって打ち上げた事があるんです。その時、子供は、自分の食べる米俵をしょって生まれてくるんだから、心配する必要はないって言ってくれました。でも、その言葉とは裏腹の現実がこれでもかと続いて…。三十三時間の拷問に耐えたから、道ならぬ恋愛の贖罪になったんじゃないかって考える部分もあったんですけど、とんでもないひとりよがりでした。それどころか、ここからが、けもの道の本当の恐ろしさでした」
「そうかい。もう許してやって欲しいって心底思うけどね。これからが本番となると、聞く方もそのつもりでいないと、身が持たないよ」
「すみません。ご負担でしたら、この辺りでお開きにしましょうか?」
「それほどやわな人間じゃないよ。この年齢になって、人生を本質的に考えるなんてある意味で幸せな事なんだよ。大多数の人は、今更生きる意味を考えようとはしないからね」
「振り返ってみて自分でも疲れてしまいそうです。でも、そう言っていただいて気が楽になりましたから、すっかりヘドロを吐き出す事にします」
「それがいいよ。ここまでの話しを聞いてきて、自分が小谷野卯月という女のファンになっている事に気づいたんだよ。ファンというのは、ひいきにする人の事は何でも知りたいもんなんだから、遠慮なく話せばいいさ。さあ、グッと飲んで。新しいのを作るから」
御方様が新しい焼酎を作ってくれた。めったにない事であった。その行為には、精一杯の労いの気持が込められているのを感じ取った。