「ありがたい事です、本当に。私、子供が生まれた時、ちゃんと顔を見ていないんです。男の子だって教えられて、顔を見ようとしたんですけど、目がよく見えなくて…。手はありますか、足はありますか、指は揃っていますかって聞いて、五体満足ですよって言われた途端、失神するみたいに眠ってしまったもんですから」
「そりゃ、当然だよ。精も根も尽き果てたんだよ。この場にいても、ゆっくりお休みってねぎらってあげたくなるよ」
「ありがとうございます。子供がお腹にいる時、仲睦まじく暮らして、子供にたっぷりとした愛を注ごう。精神的に豊かに育った子供の行く末が本当に楽しみだ。きっと、物事を真直ぐに受け止められる人間になってくれるだろう。そんな風に考えていたんですけど、子供の顔を見た時、その考えが強い覚悟に変わったんです。親は子供の笑顔に責任を持つべきだって、痛切に思いました」
「耳が痛いね。こっちは、息子が笑顔でいると信じるしかなかったからね。確かに、子供に笑顔を与えるのは親の最大の任務かもしれないね」
「ええ。でも、人間の笑顔って、親の愛情だけで賄えるものじゃありませんよね。大きくは国のシステムだと思うんです。たっぷりと愛されて大きくなったら、その愛を社会に還元できるような人間に育って欲しいって、生まれたての吾が子に訴えました」