第11章 駆け込み乗車(17) | 3.5次元の不倫

3.5次元の不倫

この本は恋愛と人生についての小説ですが、
ひきつづき児童書(英語の対訳付)を書きました。
おたのしみに!

「三十三時間か…。危なかったね。聞いていて、また肩が張ってきちゃったよ」

御方様は、再び肩を抜くような仕草をした。

「すみません。疲れますよね、この話」

「聞いているだけでも疲れるんだから、当の本人の苦しさたるや、察するに余りあるよ。よく、辛抱したね。大したもんだよ」

「だって、仕方ないじゃないですか。でも、タオルにしがみついて耐えている姿は鬼気迫るものがあったって小谷野さんがしみじみと言っていました。自分にはとてもあんな芸当はできない。この女には、一生頭が上がらないってあきらめたそうですよ」

「男は何の役にも立たないからね。脱帽だろうよ」

「御方様はどうだったんですか? 大変でした?」

「いや。陣痛が来てから五、六時間しか経っていなかったと思うよ。若かったからね。恐れを知らない心と身体でサラリと生んだかわりに、サッと手元から消えてしまった。縁が薄いんだね。ウーちゃんは三十三時間だからね、さんざん苦しんだ分、縁も絆も深くて濃いはずだよ。ウーちゃんは、究極、運が強いんだよ」

「そうなんでしょうかね。確かに、和泉瑤子っていう学生時代の友達が病院に見舞いに来て同じような事を言っていました。自分も含めて、周囲には母親になりそこねた女が結構たくさんいる。それに引き換え卯月は、最終電車に駆け込み乗車して、リーチ一発で男の子を生んだんだから、強運の持ち主だと思うって、そう言っていました」

「最終電車への駆け込み乗車か…。その通りだね。神はどうしてもウーちゃんを母親にさせたかったんだね。だから守られたんだよ、きっと」