やがて、子供が渾身の力で現世への扉を開こうとしているのが身体でわかった。
(さあ、いよいよだわ。とりあえず、小谷野さんにはここから出て行ってもらおう。生きるか死ぬかの正念場、一人で闘おう。でも、これじゃ力が入らない。何か、よりどころが欲しい。そうだ!)。
小山のようなお腹をさすり続けている小谷野に尋ねた。
「タオルありますか?」
「あるよ。何で?」
「ベッドの枕元にしばって! うんと強くね。それにつかまって踏ん張るから」
「わかりました」
小谷野は、弾かれたように立ち上がった。
「これでいいかな?」
「オッケーよ。じゃあ、悪いけど出て行ってくれる? ここから先は一人の方がいいから」
「でも…」
「喋っていられないのよ。心配しないでいいから」
ハッハッで息を吸い込み、フーでタオルにしがみついて息を吐き出した。小谷野の顔を見るゆとりなど当然なかったが、恐らくは、気おされるような表情であったろうと思う。絞り出すような声で言った。
「わかった。頑張ってくれ」
「大丈夫です」
小谷野は、ヨロヨロと部屋を出て行った。
人間、最後は一人である。
一人の男の子が産声を上げ、母という称号を手にしたのは、それから実に三十三時間後の事だった。