第11章 駆け込み乗車(15) | 3.5次元の不倫

3.5次元の不倫

この本は恋愛と人生についての小説ですが、
ひきつづき児童書(英語の対訳付)を書きました。
おたのしみに!

測定が終わり、小谷野と二人で病院を出た。隣接する血液センターの建物をいつになくじっと見つめた。輸血という現実が頭をかすめ、ブルッと身体が震えた。またすぐに病院に戻ってくるような予感を感じ、もう一度身体が震えた。(こわくなんかない。武者震いだわ)。

「どうした? 大丈夫?」

「ええ。でもね、今日あたりかもしれないわ。もう一度ここに来るような予感があるのよ」

「そうか…。いよいよか…」

「お母さんに電話をしてくるわ」

「どうした?」

「お昼にいなり寿司を作ってもらおうと思って。食べておいた方がいいと思うの」

「一緒に行くよ」

前を歩く小谷野との隔たりが、胎児の成長を物語っていた。

その日の夕刻、小谷野に付き添われて入院した。予感は大当たりだった。(いなり寿司を沢山食べておいてよかった。これなら踏ん張れる)。午後の六時、陣痛予備室に入った。そして、心臓が口から飛び出してきそうな痛みと闘い、丸一日が経過してもなお、出産の時は訪れなかった。

(この子、生まれてきたくないのかしら? そんなはずはない。お腹の中で一回転したりして、早くここから出してくれってアピールしていたんだから。だとしたら私のせいよ。出てきたくても、なかなか出てこられないんだわ。ご免ね、ご免ね。若い身体で生んであげられなくて)。あんなに活発に動いていた子が、今どんなに苦しんでいるんだろう、無事でいてくれるのかしらと考えると、我が身の痛さなどより、一途に子供が心配で、泣き叫びたい気持だった。