測定が終わり、小谷野と二人で病院を出た。隣接する血液センターの建物をいつになくじっと見つめた。輸血という現実が頭をかすめ、ブルッと身体が震えた。またすぐに病院に戻ってくるような予感を感じ、もう一度身体が震えた。(こわくなんかない。武者震いだわ)。
「どうした? 大丈夫?」
「ええ。でもね、今日あたりかもしれないわ。もう一度ここに来るような予感があるのよ」
「そうか…。いよいよか…」
「お母さんに電話をしてくるわ」
「どうした?」
「お昼にいなり寿司を作ってもらおうと思って。食べておいた方がいいと思うの」
「一緒に行くよ」
前を歩く小谷野との隔たりが、胎児の成長を物語っていた。
その日の夕刻、小谷野に付き添われて入院した。予感は大当たりだった。(いなり寿司を沢山食べておいてよかった。これなら踏ん張れる)。午後の六時、陣痛予備室に入った。そして、心臓が口から飛び出してきそうな痛みと闘い、丸一日が経過してもなお、出産の時は訪れなかった。
(この子、生まれてきたくないのかしら? そんなはずはない。お腹の中で一回転したりして、早くここから出してくれってアピールしていたんだから。だとしたら私のせいよ。出てきたくても、なかなか出てこられないんだわ。ご免ね、ご免ね。若い身体で生んであげられなくて)。あんなに活発に動いていた子が、今どんなに苦しんでいるんだろう、無事でいてくれるのかしらと考えると、我が身の痛さなどより、一途に子供が心配で、泣き叫びたい気持だった。