「そうよ。もう五ヶ月の半ばですからね。立派な妊婦よ」
「ふーん、何かすごいね。その中に子供の幼虫が住んでいるんだ」
「何よ、そのグロテスクな言い方は! とにもかくにも、お久しぶり。変わりはない?」
「少しだけ、あるといえばあるのよ。故郷に建売住宅を買ったのよ。親のためにね」
「ええ! 家を買ったの! いやだ、少しなんてもんじゃないわよ。大イベントじゃないの。すごいね。お母さん達、喜んだでしょう」
「まあね。借家住まいのままで死なれたんじゃ、後味が悪いからね」
「ローンが大変でしょう? 何年?」
「二十五年よ。これで、ますます男とは縁遠くなったわ」
「小金目当ての男に付け込まれないように気をつけなさいよ。世にゴマンとある話なんだから」
「何が小金よ。借金があるだけじゃない。しかし、学窓を巣立って幾星霜、随分と違った人生になっちゃったもんね」
「本当ね。それぞれの定めなんでしょうけどね」
「まあ、その辺りの事もゆっくりと話そうじゃないの。子供に聞かれるとマズイ話もあるだろうけどね」
「アハハ。胎内免疫っていう事もあるわよ」
「胎内免疫か。うまい事を言うわね。ああ、お腹が空いた。食べるとするか」
瑤子は、卓上のベルを押し、仲居を呼んだ。
「お客様、膝掛けをお使いください。この時期でも、冷えは大敵ですからね」
「わあ、すみません。助かります」
女が素直に女を生きようとすると、当人が面食らう程に、世間は暖かだった。
「ええっ! ついこの間まで医者に行かなかったの? 何で? 生みたくなかったわけ?」
瑤子は、いつぞやの看護婦にも似て、理解の外だと言わんばかりの顔で凝視した。
「まさか…」