第11章 駆け込み乗車(6) | 3.5次元の不倫

3.5次元の不倫

この本は恋愛と人生についての小説ですが、
ひきつづき児童書(英語の対訳付)を書きました。
おたのしみに!

「そうよ。もう五ヶ月の半ばですからね。立派な妊婦よ」

「ふーん、何かすごいね。その中に子供の幼虫が住んでいるんだ」

「何よ、そのグロテスクな言い方は! とにもかくにも、お久しぶり。変わりはない?」

「少しだけ、あるといえばあるのよ。故郷に建売住宅を買ったのよ。親のためにね」

「ええ! 家を買ったの! いやだ、少しなんてもんじゃないわよ。大イベントじゃないの。すごいね。お母さん達、喜んだでしょう」

「まあね。借家住まいのままで死なれたんじゃ、後味が悪いからね」

「ローンが大変でしょう? 何年?」

「二十五年よ。これで、ますます男とは縁遠くなったわ」

「小金目当ての男に付け込まれないように気をつけなさいよ。世にゴマンとある話なんだから」

「何が小金よ。借金があるだけじゃない。しかし、学窓を巣立って幾星霜、随分と違った人生になっちゃったもんね」

「本当ね。それぞれの定めなんでしょうけどね」

「まあ、その辺りの事もゆっくりと話そうじゃないの。子供に聞かれるとマズイ話もあるだろうけどね」

「アハハ。胎内免疫っていう事もあるわよ」

「胎内免疫か。うまい事を言うわね。ああ、お腹が空いた。食べるとするか」

瑤子は、卓上のベルを押し、仲居を呼んだ。

「お客様、膝掛けをお使いください。この時期でも、冷えは大敵ですからね」

「わあ、すみません。助かります」

女が素直に女を生きようとすると、当人が面食らう程に、世間は暖かだった。

「ええっ! ついこの間まで医者に行かなかったの? 何で? 生みたくなかったわけ?」

瑤子は、いつぞやの看護婦にも似て、理解の外だと言わんばかりの顔で凝視した。

「まさか…」