「はい。あの時、嘘偽りなく思いました。この感動に比べたら、ちっぽけな店なんかどうっていう事ないって」
「よくぞ言った。そりゃ、金はかかったかもしれないけど、所詮は物じゃないか。それに引き換え、三木本さんとの出会いは、聞いているこっちまで生きていて良かったって震える思いがするからね。勇気をもらったね」
「ええ、でも百パーセントそうでもなかったんです。お店の経験で不安過多症になってしまったというか、大袈裟に言えば、森羅万象に懐疑的になってしまったようなんです。この時も、ごまかし切れない暗い予感があったんです」
「というと?」
「二つありました。一つは、やろうとしている事に胸がときめかなかった事でした。企画者と編集者としての味も香りも理工舎で出し尽くしてしまいましたから、パッシブエイトは二番煎じだったんです。食べるための手段に過ぎない仕事に、ときめきはなかったんです」
「二番煎じか…。上手い言い方だね。でも、よくわかるよ。何でも二度目っていうのは感動が薄いもんだ。しかし、ウーちゃんの例もあるし、一概にそうとも決め付けられないかもしれないけどね」
「私の例とおっしゃると?」
「二度目の男の割りには、飽きた様子もないじゃないか」
「ウフフフ。確かにそうですね。でもそれは、一度目と大きく路線が違っているからじゃないですかね。もっとも、多事多端で、飽きる暇がないとも言えますけどね」
「なるほど、そうかもしれない。それで、あと一つは?」