「理工舎の金で手に入れたものは根こそぎ奪われるんじゃないかっていう予感です。八ヶ岳の土地だって、理工舎のお給料で買ったわけですから」
「うーん。そう考えるのも無理はないね。トーホーもきっと同じ不安を感じただろうと思うよ。辛かっただろうね。それでも走り出したわけだから」
「ええ。悪い予感を封じ込めて、仕事に意欲を持とうと自分を追い込んで歩き始めたんです。でも、自分達だけの心配をしていられるうちはまだ良かったんです。すぐに、人として大きな責任を負わされる事になりました。こんな不安定な私達を親と見込んで、生まれてくる命があったんです。変わり者もいたもんです」
「ほう。電話をもらった時に、息子も大学に行ってしまってなんて言っていたから、子供を生まないはずのウーちゃんが宗旨替えして母親になったのかって、感慨深いものがあったんだけどね。ここで、若君がご登場になるわけだね」
「はい。平成三年という年はエポックメーキングの年でした。会社を作り、子供が生まれたんです。でも…」
「大変だったろうね。経済的にも肉体的にも」
「はい。お金がなくて、ギリギリまで医者にも行けなかったんです。お恥ずかしい話ですけど」
「そうかい…。そりゃあ、並大抵じゃなかったね」
「ええ…」
言葉を続けようとして、ためらった。
「あんまり、僕の個人情報を漏らさないでくれよ」
息子にクレームをつけられそうで、苦笑いした。