「お気遣いには及びません。それよりも、こんな事で弊社を見限らないでください」
「とんでもありません」
三木本さんは、小谷野と握手を交わして出て行った。私と小谷野は、申し合わせたように椅子にへたり込んだ。
「ああ、驚いた。第二の三木本は元祖をはるかに上回るわ。それにしても、三木本さんてどういう人なのかしら。さしずめ、<市井におわす仏様>だわ」
「よっぽどの縁なんだろうね。だけどさ、店で食べられていたら地獄を味わう事はなかったかわりに三木本さんと知り合う事はなかったし、こんな感動も味わえなかった。一体どういう事なんだか、誰か教えてくれないかね、実際」
「私達の関係だってつくづく不思議だと思いますよ。絶対に交わるはずのない別々の川だったのに、嵐だか台風だかのせいで氾濫して突如として合流したんだから。すべての現象は、必然のプログラムなんですよ、きっと」
「そうかもしれないね。とにかく、店の時みたいな醜態を演じる訳にはいかないよ。店は武家の商法だったって言い訳もできるけど、今度は本業だからね。三木本さんだけじゃない。母上や姉上にも報いて行かなきゃならないし」
「そうですね。何とかやって行かなければ申し訳が立たないですね」
経済不況という向かい風の中、パッシブエイトは片翼飛行を承知の上でテイクオフを果たしたのだった。
話が終わると、疲れたのか、御方様は、肩を抜くような仕草をした。
「お疲れですか、御方様」