「言葉に気をつけてね。ダメだと思ったら、今日のところは、引き上げてきてね」
「わかってる。心配しないで、いいからね」
礼服の背中が日に照らされて、まぶしかった。コンビニの駐車場で、爆弾のような不安と闘いながら、小谷野の戻りを待った。<アンタの中にはヤクザな血が流れている>。母の言葉が、頭の中に浮かんでは消えた。。
二十分程経って、小谷野の姿が見えた。安堵感にも増して、憤怒にも似た、たぎる様な思いがこみ上げてきた。(小谷野は、ヤクザと対マンを張るために会社を辞めたわけじゃない。この人をこんな目に遭わせるなんて、一体誰の差し金なの!)。車を飛び出し、小谷野の胸に飛び込んた。
「良かった。五体満足だわ」
「一件落着だ。走りながら話そう。開店に間に合わなくなる」
小谷野が車を走らせた。いつもと変わらない運転であったが、心中何を思っているのか、彼の方から口を開こうとはしなかった。
「疲れたでしょう」
「ああ、さすがにちょっとね。いい度胸しているって、親分さんに褒められたよ」
「そうでしょう。顔に凄みがあったもの。それで、何て話したの?」
「ストレートにそのままだよ。うちの店を気に入っていただいているのは嬉しいんですが、他の方が気にされるのでご遠慮願えないだろうか。退職金をつぎ込んだ店をつぶす訳にはいかない。我々はあの店で食べて行かなきゃならない。わかってくださいってね」
「そしたら」
「物分りは良かったよ。居心地がいいから、気に入って、つい足が向いてしまった。悪かったってね。僕たちのことが、好きだったんだそうだ。優しいからなあって、独り言みたいに言っていたよ」