不退転の決意を胸に、事はすぐに実行に移された。決行の前日、<あんこ堂>という和菓子屋の主人を二人で訪ねた。違和感を感じる商店街の人達のなかにあって、彼は、まだしも心を許せる人柄だった。小谷野は、黒の礼服を身につけていた。
「ご存知かもしれませんけど、何の因果か、とんでもない輩に気に入られてしまいました。困り果てています」
「黙ってはいたけどね、かなり噂にはなっていますよ。人がいいから、いいように付け込まれるんだって、同情的な人もいるけど、本当はどういう人たちなのかって疑っている人もいますよ」
「どうも、善意が裏目に出るタチのようでして」
「この世知辛い世の中で、二人は異質なんだよ。まずもって、人に優しい。宇宙人じゃないかって考えることがあるくらいですよ」
「浮世離れした、よっぽどのボンクラなんでしょう、きっと。とにかく、いくらボンクラでも、手をこまねいている場合ではありません。それで、当の親分とサシで話をつけようと決意したわけなんです」
「ええっ、一人で会うっていうんですか」
「そうです。前のオーナーが責任を感じて、自分も一緒に行くって言い張ったんですが、断りました。一人の方がいいんです。事務所は、二つ先の駅裏だという話です」
「ああ、それは私も何となく知っているけど…。大丈夫かな」
「こうするしかありません。それで、お願いがあるんです。家内が心配だからどうしても一緒に行って車の中で待っているっていうもんで、もし五時になっても戻らないようでしたら、この張り紙を店の玄関に貼ってもらいたいんです」
<本日、都合により休みます。店主>と書いた紙を渡し、頭を下げた。
「そんな事くらいはお安いご用だけど、心配だよ。まさか、素人に手出しはしないと思うけどね」
「これしか方法がないんです。よろしく、お願します」
「了解しました。帰りが遅かったら、一応、警察に連絡するけど、いいかな」
「はい。そうして下さい。では、よろしく」
あんこ堂の主人は、仏壇の金を鳴らした。近くの神社で肌守りを買い、車を走らせた。