第9章 裏 目 (1) | 3.5次元の不倫

3.5次元の不倫

この本は恋愛と人生についての小説ですが、
ひきつづき児童書(英語の対訳付)を書きました。
おたのしみに!

第9章  裏   目

「こちらは四万十の鮎でございます。この時期の鮎は香魚といって、独特の香りがいたします。存分に香りを味わってください」

仲居さんの説明に、御方様は相好を崩した。

「いやあ、四万十の鮎を味わえるとは何とも有り難いですね。さすがに、堀川さんだけのことはある。見事な鮎だ」

「有難うございます。まずは鮎を冷めないうちに召し上がってください」

「いただきます」

口に含むと、甘い草のような香りがした。

「何とも言えない香りがしますね。これは、何の香りなんでしょうか」

「何でも、食べている藻の臭いだということです。香魚と呼ばれるのはこの時期だけで、落ち鮎になると香りはしないんだそうです」

「なるほど、これぞ旬の極みですね。こっちは、とっくの昔に落ち鮎ですけどね」

「そういえば御方様、昔、こちとらの人生なんぞ、咲かないうちにドライフラワーだって言っていましたよね」

「ああ、確かに言った。今でもその通りだと思っているよ。悔しいね」

仲居さんが、こらえかねたように高笑いした。

「オホホホホ。本当に面白い事をおっしゃいますね。私もその一人ですから、お仲間に入れてください」

「いや、そんな簡単に老いらくの仲間になっちゃいけません。一花咲かせてくださいよ。狂い咲きという事もあるでしょう。アハハハ」

「オホホホホ。ああ、楽しい。狂ってみたいもんですよ。では、頃合を見計らって天麩羅をお持ち致します。ごゆっくり、どうぞ」