「そんな風に自分を責めるのはナンセンスだよ。生んだ子が必死で生きようとした結果なんだから、ちゃんとわかっていたさ」
「そう言っていただくと、少しは救われます。じゃあ、今はお一人ですか」
御方様の顔が途端にほころんだ。
「いや、<おでん>っていう猫と一緒だよ」
再会以来、張り詰めた会話が続いていたが、<おでん>という名前の意外性と愛らしさに自然と笑みが浮かび、温かいぬくもりが心を満たした。(一人ぼっちじゃなくて良かった。おでん、御方様を頼むわね)。飛んで行って、頬ずりをしたいような騒動にかられた。
「いやだ、おでんですか。可愛い。でも、何でおでんなんですか」
「その日はさ、十月の半ばだっていうのにうすら寒くてね、有り合せの大根やジャガイモでコトコトおでんを煮ていたんだけど、どうしてもチクワブが食べたくなってスーパーに買いに行って、その帰りに拾ったんだよ。だから、おでんなんだよ。毛の色も茶色でおでんの煮汁みたいだしね」
「なるほど、最高のネーミングですね。昔、江分利満氏の優雅な生活っていう小説だかドラマがあったと思うんですけど、<御方様とおでんの優雅な生活>」っていう小説が書けそうですね。よくよく、ドラマ性のある方なんだなって思います。今日、おでんはどうしているんですか」
「健康診断付きで獣医さんに預けてきたよ。長生きしてもらいたいからね。ずっとさ、おでんと二人で時が止まったような毎日だったところに、ウーちゃんが登場してきた。これは、何かが始まるなって感じたよ。ウーちゃんは、触媒みたいな人だからね」