読み終えると、御方様は手紙を丁寧に折り畳み、合掌をした。私も、それにならった。
「驚かれたでしょう」
「ああ…。しかしね、生死ばかりは神の領域だからどうしようもない。本人の無念は察するに余りあるけどね。何もやらずじまいの人生だったからね」
「悔しかったに違いありません。その証拠に、彼はその悔しさを私に伝えにきたんです」
「ええっ! どういう事なんだい」
件の出来事を御方様は息をころして聞いていた。
「信じていただけますか」
「ああ、信じるよ。ここまで生きてくれば、科学では説明のつかない現象を経験しているからね。魂魄この世にとどまりてって言うじゃないか」
「ええ。その一件があってから、本を読んだりしてわかったんですけど、死者は冷気を運んできたり、音をたてたり、物を動かしたりする事で、自分の存在を知らせようとするらしいんです」
「うん。トーホーの知り合いにね、嘘のような経験をした人がいるんだよ。その人の親戚のおばさんがね、末期を悟って家に帰りたいって泣いて頼んだんだけど、不仲の嫁さんが承知しなかったもんだから、家に帰りたいってうわ言のように言いながら病院で息を引き取った。火葬場で骨を拾う段になって、すごい物を見たんだそうだよ。死に装束に履かせた藁草履がね、ほんの少し焦げただけで、そのままの形で焼け残っていたんだって」
「ええっ、それ本当の事ですか。信じられない。藁なんてあっという間に焼けてしまうはずじゃありませんか」
「この世的にはね。だけど、魂のレベルになると話しは違ってくる」
「恐ろしいとしか言えないですね」
「うん。こげた草履を見た途端、貧血で倒れた女の人もいたそうだよ。その草履を履いて家に帰るつもりでいるんだよ。博士の魂もまだこの世にいるんだろうね。悔しくて、向こうに行けないんだよ」