第7章 道 行 (12) | 3.5次元の不倫

3.5次元の不倫

この本は恋愛と人生についての小説ですが、
ひきつづき児童書(英語の対訳付)を書きました。
おたのしみに!

「私と小谷野さんは、最近まで全く違う世界で生きていました。社内においては、ある上役との関係において反目していたくらいです。ですが、ここ数年の小谷野さんの辛そうな様子はとても気になっていました。昔の明るくて、一途に人生を切り開いていた小谷野さんの印象は強く心に残っていましたから。その原因はひとえにその上役との葛藤にあるのかと思ったのですが、家庭生活にも閉塞感を抱いていらっしゃると分かった時、自分の悩みも含めて、反目から共感へと変化していったのです。今の小谷野さんのお話で改めて思ったのですが、小谷野さんは会社では上役の出世の道具、家庭では奥様の働き蜂だったのでは、と率直に言ってそう思います。限界まで耐え抜いた時、強烈な自己防衛本能が働いて、小谷野さんは一人になる事を選んだのだと思います。そこに私が居たのは運命としての必然です。男だ女だという以前に、魂の触れ合いです。長々とすみません。とりあえず、以上です」

「貴女、なかなか良い事を言いますね。驚いた」

「はっ、そんな。すみません」

厳父の思いがけない言葉に、私と小谷野は顔を見合わせた。

「大人同士なら痛み分けですむ。しかし、子供は犠牲者です。卯月さん。私の孫達には、どのように責任をとってもらえますか」

「はい。私は、不仲の両親の下で強い精神的な苦痛を感じて育ちました。形だけの夫婦関係は子供にとって罪悪だ、という考えを持っています。子供にとっての親はまずほとんど母親を意味しますし、特に小谷野さんのご家庭ではその傾向が強いように伺っております。責任とおっしゃるんでしたら、それは小谷野さんが父親として物質的にどこまで誠意を示せるかにかかっていると思います。以上です」

「それについては、小谷野君、どう考えていますか」

「はい。全財産を放棄します。二言は、ありません」