苦しそうな表情で聞いていた厳父が、搾り出すような声で言った。
「娘の生活態度が段々と華美になっていった事は、親として気付いてはいたんです。娘が皆を従えて女王気取りになっていくのに連れて、小谷野君の顔がくもることが多くなった。どうしたものかとは思っていました。」
「私は物質的な物には幸福感を感じなくなっていったんです。一方で、彼女の物質欲はエスカレートする一方だった。趣味の習い事もその一つでした。高価で華美な服装などに投影されていきました。」
「娘がそうなったのは、貧しく育ててしまった私に責任があるんです。親として,甲斐性がなかった。だから、まずいなと思いつつも、幸せそうな様子の娘に意見をすることは出来ずじまいだった。本当に、申し訳なかった」
深く頭を下げる厳父を小谷野が両手で制した。
「いや、彼女が増長していったのは、僕が仕事で家庭を疎かにしてしまった責任もあるんです。会社が発展することが幸福につながると考えて、仕事に没頭しました。権利を守るために組合で声もあげてきた。結果として、家には不在勝ちで、家族にはさびしい思いをさせてしまった。こうなったのは、両方とも悪いんです」
聞いている私は、人というものが哀れな存在に思えてやるせなく、逃げ出したいような心境を抑えて必死でその場に座っていた。そして、ついに厳父の質問が私に向けられた。
「貴女はなぜ、小谷野君とこういう関係になったんですか。その事をどう思っていますか」
(今こそきちっと話をして、自分と小谷野さんの名誉をまもらなくちゃ)。私は、ここにいたるまでの経緯と、確信にも似た現在の心境を冷静に話した。