あのすみませんけど、夫婦の話合いはお二人でされるものだと思います。こんなに大勢で寄ってたかって一人の男を悪玉扱いするのはフェアじゃないと思います。私は逃げも隠れも致しませんけど、こんな愚劣な状況で物を言おうとは思いません。しかるべき時にまた呼び出してください」
小谷野が、奥方に向き直った。
「母親に娘と弟、近所の友達、職場の男友達まで呼び寄せて恥ずかしいと思いませんか。それならこっちだって兄弟や職場の上司を動員しなくちゃならない。そんなに僕と話すのがこわいんですか? ダメだなあ、そんな事じゃ。もっと自分を高めてください。二人だけで話し合える自信がついたら、会社に電話してください」
「今日は帰ります」
うちそろう面々で、反論する者は誰ひとりいなかった。
「失礼いたします」
車内で、小谷野がしずかに唇を重ねてきた。そして言った。
「ありがとう。誇らしかったよ」
「貴方も立派でしたよ」
マリアの家をめざして車は夜の街をひた走った。