「わかりました。今出て行きます」
おそらくは修羅場になるであろうその場を想像して、さすがに足がガクガクと震えた。が、小谷野との仲が男女の肉欲ではないというプライドが種火のようにいつも燈っていたから、負けるものかと強い決意を胸に秘めた。
広いリビングに通された私は、テーブル上の料理に目を奪われた。刺身にオードブル、酒まで用意されていた。(彼が死ぬほどの苦しみを味わいながら稼いだお金で、豪気なものね。奥方はこうやっていっぱしの女を張ってきたのね)。私の中で、何かが切れた。
小谷野は、奥方の親衛隊に取り囲まれていた。私を認めると「ごめんね」というように目で合図を送ってきた。私もしっかりと合図を返し、あえて彼から離れた場所に腰を降ろした。
(随分と大勢さんを揃えたものね。自分と亭主のことなのに応援の手を借りるとは笑止千万だわ。こっちは私ひとりで十分よ。さっさと済ませてやるから)。完全に度胸がすわった。
「あんたさ、親父をだまして一体どういうつもりなんだよ」
口火を切ったのはやはり、憎しみのかたまりとなった娘であった。
「私、貴女からアンタと呼ばれる覚えはありません。言葉づかいに気をつけないと品性が下がりますよ」
毅然と言い放った。娘は毒気をもがれたように、一瞬、口をつぐんだ。