第7章 道 行
「朝から申し訳ありませんが、これをお願い致します」
その朝、私はかねての打合せ通り、朝一番で小谷野課長に退職届を出した。そして、これもかねての打合せ通り、小谷野課長は激しく狼狽した。
「えっ。どうしたんですか。寝耳に水ですよ。とにかく、一旦預かりますから」
そう言うと退職願いを手に次長の席に行き、二人は、大慌てといった様子で会議室に入って行った。
お昼休み、御方様と人目を避けて、少し離れた所にあるホテルのレストランで落ち合った。
「さっきまで、オコリンボと喫茶店にいたんです。驚いたことに慰留されました。この場で退職願いを破り捨てる事もできる、喧嘩相手がいなくなって寂しいなんて言っていました。本心かどうかは別ですが」
「いや、満更嘘でもないと思うよ。オコリンボの心境もわかるような気がするよ」
「これにて一件落着と思っていたら、小谷野君の様子がおかしいんだけど、何か気付いている事はないかって聞かれて、本当に心臓が止まりそうになりました」
「まあ、今までボロが出なかったのが不思議なくらいだからね。潮時だね」
「はい。色々な意味でそう思います。若い人に囲まれて、身の置き所がなくなってきましたし、仕事の面でもパソコンが主流になって、手作業の編集は早晩消えて行くでしょうから。御方様のお陰で脅かしにも負けなかったし、とりあえず職制にはなったし、合格点じゃないかと思っています」