第6章 隠れ家 (2) | 3.5次元の不倫

3.5次元の不倫

この本は恋愛と人生についての小説ですが、
ひきつづき児童書(英語の対訳付)を書きました。
おたのしみに!

<仕方がないわ。母にもこの試練を乗り越えてもらうしかない。小谷野さん、毒舌のマリアがついに勘当されてしまいました。今や、勘当のマリアです>。自虐的な笑いがこみ上げてきた。

昼間のアパートに人の気配はなく、静かにここを去って行く事ができそうだった。テーブルの上をさっと拭くと、手紙と現金の入った封筒を置いた。手紙は、涙という厄介者に邪魔をされ、喫茶店でコーヒーを二度もおかわりして書き上げたものだった。

あるいは貴方も、ホッとされるかもしれませんね。貴方も本当は私から自由になりたいと思っていたのではないでしょうか。

二人の関係では、行動を起こすのは大抵の場合私でした。ですから、お互いの真の幸せを考え抜いた挙句、今回も私が一石を投じる事にしました。

若かった日々、貴方を愛し、貴方と歩いた歳月に悔いはありません。楽しい思い出も沢山作りました。でも、残念ながらいつしか考えている事、思考する世界が違ってしまった。あんなに語り合ったはずなのに、会話は途絶え勝ちになり、共通の話題もなくなってしまいました。

精神的な結び付きというコアが失われた以上、このままの関係を続けていくことは、どちらにとっても拷問にしか過ぎないと思うのです。長い間、私の一人よがりにも似た言動に辛抱強く付き合って下さって、有難うございました。

気持の整理がつき次第、電話をさせていただきます。申し訳ありませんが、私への連絡は不可能だと思ってください。居場所は誰にも教えるつもりはありません。家族にさえも。最後まで勝手を言ってお許しください。

郵便貯金を二つ解約しました。その中からとりあえず、半年分のお家賃と公共料金の概算を合計した金額と、当座のお金を置いていきます。わずかばかり残金がありますので、それは私が納めさせていただきます。ご活躍とご健康を心からお祈り致します。本当に、本当にありがとうございました。

 <大丈夫。書き残した事は何もない>。手紙をもう一度読み返した後、丁寧に封筒に入れ直した。最低限度の荷物を鞄に詰めると、最後はただのネグラと化してしまった部屋にお詫びとお別れを言ってガチャリと鍵をかけた。青春が過去のものとなった瞬間だった。帰る先は<マリアの家>、ただ一つであった。