第六章 隠 れ 家
「アンタの中にはヤクザな血が流れているのよ。そうとしか考えられない」
母はそう言うと、青ざめた顔を両手で覆い隠した。
「そんな事ないと思うわよ。マリアだって言ってくれる人もいるんだから」
「何でそういうふざけた言い方をするの。そういう所がヤクザだって言うのよ。若すぎるってあれ程反対したのに、熱に浮かされて結婚して案の定でしょう」
「そう言われると思ったから、ギリギリまで話さなかったのよ。すべての現象に永遠はないでしょう。諸行無常なのよ」
「とにかく、ここに帰っていらっしゃい」
「それだけは勘弁して。一人になりたいのよ」
「アンタ一体、どこからここへきたの」
「アパートよ。今日は、会社を休んだのよ。喫茶店で手紙を書いて、それからここへ来たのよ」
「一人になりたいなんて上手い事を言って、本当はその小谷野さんとかいう人と暮らすつもりなんでしょう。それだけは…」
「それも含めて自分で判断するわよ」
「何を言っても聞く耳を持たないのね。前の時とまるっきり同じじゃないの。そんな考え方じゃあ、何度でも失敗するわよ。その時に泣きついてきたって知らないからね」
「馬鹿馬鹿しい。いい年をして、お母さん、助けてとでも言うと思っているの。たとえどうなっても自分の始末くらいは自分でつけるから心配しないでよ」
「じゃあ、勝手にするといいわ。でも、しばらくここには顔を見せないでね」
「そうね。お互いにその方がいいと思う。連絡は会社にして下さい。身体に気をつけてね。しばらくの間、さようなら」
さすがに、胸をえぐられる思いだった。母はエプロンで顔を隠したまま、立ち上がろうともしなかった。