「大丈夫。十分に若いよ。恥ずかしい話だけど、僕も泣いたよ。会わない間に自分と家族の関係を改めて冷静に解析してみたんだ。一番の衝撃はね、子供達の中に父親としての僕の存在がほとんどないという事だった。子供は母親の事しか見ていない。その事実に気付いた時にね、御方様の、今世は子供との縁を結べない人生だった、っていう言葉が頭に浮かんだ。僕は縁こそ結んだものの、親子関係は驚く程希薄なものになってしまった。物理的な物を残してやる事しかできない父親なんだよ、僕は」
「親子関係は決して一律ではありませんから。子供は、偽りの夫婦関係なんか望んでいません。下手な我慢は、かえって迷惑なんです。すみません。これは私の体験が言わせている事なんです」
「何十億という人間が生きているんだから、親子関係だって色々あって当然だよね。御方様のように、子供と会わないという愛情の示し方もあるんだからね」
「そうですね。一見冷徹とも思えますけど、究極の、切ないほどの愛情じゃないでしょうか」
「うん。あのね、僕と貴女は一緒に生きて行くのが必然だと思う。だから必ず結論を出す。僕も弱い人間だから、イライラしたり変な言葉を口走ったりするかもしれないけど、そんな時は、この人は今混乱しているんだと思って許して欲しい。この前みたいに、さようならなんていう事だけは絶対に言わないでもらいたい」
「はい」
「良かった……。ねえ」
「はい」
「二人で一緒に生きて行くという証が欲しい。どうしても今日、欲しいんだ」
「わかりました」
「いいんだね」
「ええ。必然です」
この夜、小谷野課長は上司から抜き差しならない関係の人へと変わった。(御方様、御免なさい)、心の中で何度もそう叫んでいた。