3.5次元の不倫 第5章 けもの道 (11) | 3.5次元の不倫

3.5次元の不倫

この本は恋愛と人生についての小説ですが、
ひきつづき児童書(英語の対訳付)を書きました。
おたのしみに!

「御方様からどういわれたのかは知らないけど、ボクは今大きな決断を下そうとしている。でも、それには少し時間がかかる。お互いにマッサラな人間ではないけど、貴女が言うとおり、抱えている状況も犯した罪もボクの方が圧倒的に大きい。子供がいるからね。そして、今の奥さんを愛したという紛れもない事実がある。男が結婚するっていう事は、自分の人生に一人の女性を巻き込んでしまうという事だからね。責任も感じているし、正直言って良心もうずく。それでね」

「はい」

「ボクに少しだけ時間をくれないかな。ウーちゃんと離れた時間を持つ中で、色々と考えてみたい事がある。わかってくれるね」

(とうとう出たわね。決まり文句、常套手段だわ)。皮肉な笑みを浮かべながら、私は精一杯大人の女を演じようとした。

「もちろんです。それがわからないほど、愚かではないつもりですから。どうぞ、ゆっくりと考えてください。一足先に帰ります。ありがとうございました」

「ウーちゃん」という声に耳をふさぎ、一人で店を後にした。

<今日で終わりかもしれない。そう思っていた方がいい>。自分に言い聞かせながら夜の盛り場を歩いた。<男は家庭を捨てやしないからね。友達でいるという選択肢もあるんだよ>。御方様の言葉が執拗に頭の中を走り抜けた。

翌日から、心に針を刺されるような生活が始まった。淡々と仕事をこなし、会社が終わるとあてどなく町を彷徨った。努めて奥さんに話しかけている姿や、お子さん達と食卓を囲む父親としての姿が脳裏をかすめ、歩きながら声をあげて泣いた。そして、「さようなら。小谷野さん、さようなら」と大声で叫んだ。すれ違う人の好奇の視線も、涙を止める役には立たなかった。