第5章 けもの道 (5) | 3.5次元の不倫

3.5次元の不倫

この本は恋愛と人生についての小説ですが、
ひきつづき児童書(英語の対訳付)を書きました。
おたのしみに!

「そんな一時期があって、父親の死がやっと過去になったと思った頃、予想もしなかった出来事に見舞われた。一番上の姉が癌になった。しかも、首の癌だった」

「ええっ、そんなひどい事が!」

「トーホーと大違いで、なかなかの美形だった。勉強もよくできて、同人誌に詩を投稿したりしていた。首じゃあ、切ってもらう事もできないって泣いていた。可哀想だったね。母親は地獄だったと思うよ」

「それが運命という事なんでしょうか。傷まし過ぎますね」

「明け方に亡くなったんだけど、太陽はいつも通り昇ってきた。ああ、一人の人間が生きようとも死のうとも、太陽は関係なく昇るんだなあって思った。あの時の太陽の色と大きさ、忘れられないよ」

「太陽と一緒に、お姉さんの魂も天国に行ったんですね、きっと」

「そう思うしかないね。姉が死んでから、今度は母親の心臓の具合が悪くなった。おまけに、すぐ上の姉も婦人科の病気になって、結婚をできる身体ではなくなってしまった。お陰で、こっちは二人の命の心配が頭から離れない。いい加減にしてくれって思ったね」

「僭越ですけど、よくわかります。その家に生まれてきた宿命ですよね」

「そうだね。そんな状況だから、大学への進学も断念せざるを得なかった。それでね、その頃グレるまではいかないけど、ちょっと悪さをしていた時期があるんだよ。ある時、煙草を吸っていたら補導されちゃってね。その時に世話になった警官と恋に落ちてしまった」

「警官ですか。驚きました。やっぱり御方様とは縁があるんですね。私の父親も警官でしたから。それで、どうして恋愛関係になったんですか」

「ふてくされた態度をとったトーホーを<ちゃんと答えなさい。チンピラ姉ちゃんになめられるようなオマワリじゃないんだぞ>って一喝したんだよ」

「なんて、格好いいんでしょう。ドラマみたいですね」

「そう思うだろう。警官だけあっていかつい体格でさ、身体全体に生きるバイタリティーが溢れていた。父親と姉の死、母親と姉の病気、死の影に怯えて生きてきた反動が強烈に彼を求めたんだ。もう一度会いたくて、交番の周辺を歩き回って運良く再会できた。すぐに結婚しているってわかったけど、あきらめられなかった。彼も最初は適当に付き合っていたんだろうけど、そこはやっぱり男だからね。若い男が生理的欲求を抑えられるものじゃない。そして、妊娠した。男の子だった」