「不毛ってどういう意味ですか。私に不純な動機はありません。オコリンボの横暴をどうにかしたいと考えている仲間と話をしているだけです。小谷野さんと話すわけにはいかないじゃないですか。子分なんだから」
「だから、子分じゃないってさっきから言っているでしょう。しかし、何で今頃になってこんな話をしているんだろう。付き合いだけは長いのにね」
「長い間、住む世界が違っていましたからね。第一、若い頃の小谷野さんはギンギンで、人生は磐石っていう感じでしたよ。隙間風が吹いてきたのはこの五、六年っていうところじゃないですか」
「まあ、そうかもしれない。昔はね、ギンギンというより、仕事の構造も家庭も実に単純だったんですよ。オコリンボなんていう問題児はいないし、子供が小さいから大きくするのにただ夢中で、相手の内面なんて覗こうともしなかった。自分の生活だけに終始していた単細胞の男でしたよ」
「私も同じです。別々な場所で単細胞の人生を送った同士が、馬齢を重ねた挙句の果てに虚しさを抱えてここにいるんです。面白いですね」
「でも、貴女はまだまだ十分に若いですよ。僕と一緒にしたら気の毒だ。まあとにかく、これからはツンケンしないで、和やかにやって行きませんか。僕がそうひどい男ではない事はわかってもらえたでしょう」
「私がそうひどい女ではない事もわかっていただけましたよね」
顔を見合わせて大笑いした。気が付くと、満席に近かったテーブルに空席が目立ち、一日の終わりを知らせていた。不意に、やるせなさがこみあげてきた。
「すっかり遅くなってしまいましたね。そろそろ引き上げないと」
「うん。それにしても、時間の経つのが早かったなあ」
「そうですね。およそ四時間、しゃべりっぱなしでしたね」
「もっと話していたいけど、仕方ない。送って行きますよ。もう少し一緒にいたいしね」