「僕は貧しく育ったから、会社が潰れるのは戦争と同じくらいに罪悪だと思っています。うちの会社は、今まで出す本がよく売れたから、上から下までぬるま湯に漬かっているような状態だった。そんな中で、本があまり売れない時代が来るという危機感をいち早く抱いたのがオコリンボだったんですよ。新規路線の開発や企画の充実を打ち出して先頭を切って走り始めた。それは、社員を路頭に迷わせたくないという彼なりの優しさだと思うんですけどね」
「だけど、それは自分を守るためでもあるわけですから、社員のためというのは綺麗事過ぎると思うんです。私だってオコリンボの手腕は認めますよ。でも、衆人環視の中で無能呼ばわりしたり、機嫌が悪ければ大の大人に向かって聞くに堪えないような暴言を吐く。つまりですね、個人の尊厳を傷付け過ぎているって言いたいんです」
「正直言って、彼がああまで暴君化するとは考えてもいなかったんですよ。貴女には、甘いってまた怒られそうだけどね」
「邪心のない男が毒気に呑まれてたじろいでいる間に、どんどんプライバシーを侵害されて、気がついたら身動きがとれなくなっていた。悲しいかな、それが現実なんです。違いますか」
「残念ながら、おっしゃる通りですよ。しかし、ここまで言われても腹が立つどころか、むしろ心地よいんだから不思議な人ですよね、貴女は」
「あら、だってマリアだっておっしゃったじゃないですか、ウフフ」
「しかし、何の事はないなあ。あまたの本を読んでも癒されなかったのに、貴女との会話で息を吹き返したような気がする。人生は、誰と組むかですね」
たじろぐ程の熱い視線を遮ろうと、あわてて下を向いて言った。