右に同じだよ。ショー君には、僕たちが出来なかったことを、全部やり切ってもらいたいわね。驚かされることもあるだろうけどね」
「そうね。ショー君が茶髪にした時、二人ともかなりショックを受けたじゃない。あの子がそういう形で自己主張をするとは、正直なところ思ってもいなかったから」
「僕もね、そういう部分も含めて認めてやるしかないって腹をくくったつもりだったんだけど、けっこう悶々としていたんだよ。そして、あのフレーズに巡り会ったわけだ。子供が自立したら、失敗を許し、立ち直る力を信じ、助言を求められない限り、決して口出しをしてはならないってね」
「あの言葉には救われたわね。笑って、あら茶髪も似合うじゃないって言ってあげられた。当の本人は親の葛藤など知る由もなく、さっそうと茶髪で歩き回って、またさっさと黒髪に戻しちゃった。今の若い人は、やる事に悲壮感がなくてうらやましいわ。すべてが経験、軽いノリなのよ」
「彼は親との距離をあまり感じていないんじゃないかね。だから、昔なら親に隠れてやるような事をあっけらかんと口にする。分からず屋じゃないと思ってくれているんだとしたら有り難い話だよ」
「時代背景が違うのよ。私がショー君の年頃って、すごい時代だったもの。学園紛争、七十年安保、三島由紀夫は割腹自殺するし、これでもかとばかりの浅間山荘事件だもの。あの頃は、髪の長さがとてつもなく大きな意味を持っていた。長髪は反体制のシンボル、髪を切るのは体制への迎合、裏切り者扱いだもの。ショー君が軽いノリで茶髪にするのとは重みが違うわ」
「確かにね。ただ僕なんかさ、長髪も何も、貧しかったからとにかく体制の片隅にすがりついて稼いで家を出る事しか眼中になかった。結婚をしたのも、今にして考えれば、家を出る格好の口実だったのかもしれない」
「そこが似ているのよね、家から出たくて結婚したっていう所が。皮肉な事に結婚の形態は見事に正反対だったけどね。貴方はニューファミリーの旗頭で、私はDINKSの先駆者なんて言われて悦に入っていた。いっぱしのつもりでいたけど、ショー君に毛の生えたような齢だったんだと思うと、ぞっとするわ。親が狼狽したのも道理よね」