ふーん、いいじゃないの」
「それぞれに、しっかりと生きなきゃね。人生は有限だもの、やり残したことのないように、悔いの残らないようにね」
「オレは稼げる男になるつもりだよ。中学から私立に行かせてもらって、親には十分過ぎるほどやってもらったんだから、何とかしないとヤバイじゃん」
「そんな風に考えなくてもいいよ。親としては、ショー君が悔いのない生き方をしてくれればそれでいいんだ」
夫の声は、少し潤んで聞こえた。
「夕飯はカレーを作っておくから、鶏肉をタレに漬けておくから、それをパパちゃんに揚げてもらって、あとは生野菜でいいでしょう」
「うん、いいよ。唐揚げ、大量に頼むね。久しぶりなんだからさ、ゆっくりしてくるといいよ」
「優しい事を言っちゃって…。ショー君は大きくなったわね。もっともっと一緒に意気揚々と自室に引き上げて行った。
いたかったけど、時は流れてしまったわ」
「貴女は母親として立派だったよ。僕が証人になるよ」
「精一杯やったっていう自負はあるんだけど、いつも言うように、肌の触れ合いをね、もっとしたかったわ。当り前の事を思う存分やれなかったから不完全燃焼なのよ。でも、仕方ないわね」
「母親と一定の距離があったから、彼は精神的に解放されていたのかもしれないよ。母親の愛情っていうのは、時に負担だからね。とにかく、彼は大人になったよ。今回は息子の成長を骨の髄まで思い知らされた。彼に対して、下手な心配はいらないね。僕達の若い頃よりよっぽどましだよ」
「それは、私たちが円満だからよ。ショー君、家の心配をする必要がないんだもの。純粋に、冷静に自分を見つめて、人生を組み立てることができるのよ。心底うらやましいわ」