だけど、それって極めつけのお水じゃないの」
「そんな言い方、今時古いよ」
「怖い人だってくるでしょう。抗争に巻き込まれたらどうする気よ?」
「頭、おかしいんじゃないの。六本木のちゃんとしたクラブなんだからそんな心配ないよ。初日なんかさ、友達を連れて行ってかなり歩合をもらったよ」
「あら、いやだ。そういうのをご同伴って言うのよ。やるもんね」
「なんだよ、ご同伴って? 何かズレてるんだよなあ」
小谷野が、たまりかねたように重い口を開いた。
「若いんだから自由にやるのは構わないけど、本業だけは全うしないと」
「当り前だよ。オレはそれ程軽薄じゃないよ。クラブは金にもなるし、社会勉強にもなるし、一挙両得なんだよ。今しかできない経験だしさ。でも、もうやめてきた」
「あら、そうなの。どうして」
「マネージャーに結構気に入られてさ、ローテーションで週に四日入ってくれないかって頼まれたんだけど、さすがにそれだと授業がきつくなると思ってね」
「ああ、よかった。まともな考え方だわ」
「オレだってちゃんと考えているんだから、心配しないでよ。部屋で電話してくる。ご馳走様でした」
「ちょっと待ってよ。あのね、帰ってきている時に悪いんだけど、今度の土曜日に一泊で東京に行ってくるわ」
「何しに?」
「ショー君は、博士の事を覚えているかしら。小さい頃に、よく可愛がってもらったのよ」
「うっすらと覚えているけど、博士がどうかしたの」
「六月の末に突然死したのよ。五十一歳の若さでね」
「ええっ、そうなの」
それでね、博士と親しかった御方様っていう人に、その事を知らせに行くのよ。寂しい人生だったから、せめて二人で生前を偲んであげようかと思ってね」