第3章 安田講堂 (3) | 3.5次元の不倫

3.5次元の不倫

この本は恋愛と人生についての小説ですが、
ひきつづき児童書(英語の対訳付)を書きました。
おたのしみに!

だけど、それって極めつけのお水じゃないの」

「そんな言い方、今時古いよ」

「怖い人だってくるでしょう。抗争に巻き込まれたらどうする気よ?」

「頭、おかしいんじゃないの。六本木のちゃんとしたクラブなんだからそんな心配ないよ。初日なんかさ、友達を連れて行ってかなり歩合をもらったよ」

「あら、いやだ。そういうのをご同伴って言うのよ。やるもんね」

「なんだよ、ご同伴って? 何かズレてるんだよなあ」

小谷野が、たまりかねたように重い口を開いた。

「若いんだから自由にやるのは構わないけど、本業だけは全うしないと」

「当り前だよ。オレはそれ程軽薄じゃないよ。クラブは金にもなるし、社会勉強にもなるし、一挙両得なんだよ。今しかできない経験だしさ。でも、もうやめてきた」

「あら、そうなの。どうして」

「マネージャーに結構気に入られてさ、ローテーションで週に四日入ってくれないかって頼まれたんだけど、さすがにそれだと授業がきつくなると思ってね」

「ああ、よかった。まともな考え方だわ」

「オレだってちゃんと考えているんだから、心配しないでよ。部屋で電話してくる。ご馳走様でした」

「ちょっと待ってよ。あのね、帰ってきている時に悪いんだけど、今度の土曜日に一泊で東京に行ってくるわ」

「何しに?」

「ショー君は、博士の事を覚えているかしら。小さい頃に、よく可愛がってもらったのよ」

「うっすらと覚えているけど、博士がどうかしたの」

「六月の末に突然死したのよ。五十一歳の若さでね」

「ええっ、そうなの」

それでね、博士と親しかった御方様っていう人に、その事を知らせに行くのよ。寂しい人生だったから、せめて二人で生前を偲んであげようかと思ってね」