「エイリアン、故郷に帰る」の巻(56) | 35歳年上の夫は師匠でエイリアン! 

35歳年上の夫は師匠でエイリアン! 

【夫】台湾人 × 【妻】日本人

国際結婚? いえ、惑際結婚ですから!

気がつけば2男1女。

あの男を見ていると、とても同じ人類だとは思えない。
漢方薬を水なしで飲めるなんて
一体どんな味覚をしてるんだ、あのおっさんは。

 

 

 

 

 

打ち合わせに同席してくれた

ふたりの義妹や

通訳をしてくれたイーフン。

 

葬儀屋の人にも

申し訳ないことだが。

 

 

 

骨壺も。

ビデオも。

 

他のどんな話も。

 

 

実のところ、

私は上の空だった。

 

 

当事者であるという意識が

どうしても湧いてこない。

 

 

部外者なのに、

まったく関係のない会議に

駆り出されているような。

 

白々しいお芝居にでも

付き合わされているような。

 

 

そんな感覚だった。

 

 

 

 

先生は、

死んでなぞいない。

 

今は、ちょっと呼吸が

止まっているだけ。

 

必ず息を吹き返す。

 

 

 

 

話し合いに参加しながら

こう念じていた。

 

 

 

 

だから。

内心では。

 

どれもこれも。

一切合切。

 

 

 

 

「良きに計らえ。無駄になるけど」

 

 

 

 

他人事のように

こう思っていた。

 

 

 

 

 

大切な先生の命。

諦めてたまるか。

 

 

 

 

 

打ち合わせを終えると、

師匠がいる部屋へと戻った。

 

 

ベッドに横たわったままの

先生の顔を覗き込んでみるものの。

 

まだ、息をしている

様子はない。

 

 

 

台湾の風習では、

亡くなった人の体に

触れてはいけないらしいが。

 

 

構うものか。

 

 

今は、先生と

ふたりきり。

 

私を止める人は

誰もいない。

 

 

 

頬に触れ。

額を撫で。

手を握り。

 

 

師匠の呼吸が

戻るのを待つ。

 

 

 

 

 

 

 

夕刻。

 

お坊さんが、

ふたりやって来た。

 

 

師匠の前に立つと、

御経らしきものを

唱え始めた。

 

 

恐らく。

 

通夜に当たる

儀式なのだろう。

 

 

 

まあ、仕方がない。

 

師匠は、まだ動く

気配がないのだから。

 

 

 

 

お経が終わると。

 

師匠が部屋から

運び出された。

 

 

もちろん。

 

私は、その後を

着いて行った。

 

 

すると。

 

今度は車の中へと

運び込まれた。

 

 

何がどうなっているのか

全く分からないまま

一緒に車に乗り込むと。

 

そこに義姉も加わった。

 

 

 

 

車が動き出すと。

 

あれは一体

なんだったのか。

 

お経なのか、

弔いの歌なのか。

 

車中に流れる音楽に合わせ、

義姉が歌い始めた。

 

 

いや。

 

あれは唱え始めたと

言うべきなのか。

 

 

とにかく、まあ。

 

それはそれは

でかい声で合唱するのだ。

 

 

 

 

「うるさい。黙れ!」

 

 

 

 

何度も

こう罵りかけた。

 

 

 

本当に、本当に。

うるさいんだよ。

 

黙ってろ。

 

 

 

 

察するに。

 

あれは、台湾の

風習なのだろう。

 

だから。

仕方のないことなのだ。

 

 

 

ただ。

頭では分かっていても。

 

日本で生まれ育った私には、

どうにもこうにも

心が着いていけない。

 

 

 

日本では。

 

葬儀全般にまつわることは、

おおよそ静粛に執り行うのが

一般的だと思うが。

 

 

台湾では。

 

お坊さんが師匠の前で

上げていたお経といい。

 

あの車中といい。

 

 

 

どうやら。

 

少なくとも、

日本に比べると。

 

なんだか、こう。

 

故人は、賑やかに送り出す

ものなのではないだろうか。

 

 

 

 

そういえば。

台湾で暮らしていた時分。

 

家の前の広場に、祭壇が

誂えられたことがあった。

 

 

そこで、昼間。

 

一週間に渡り、

来る日も来る日も。

 

複数のお坊さんによる

お祭りレベルに壮大な

お経が唱えられた。

 

しかも、

マイクを使って。

 

もちろん、

近所中に響き渡る。

 

 

 

一体、何事かと

師匠に訊いてみたところ。

 

故人を弔うための

お経だと言っていた。

 

 

 

 

これ。

日本なら通報されるわ...

 

 

 

 

私が思うに。

 

あれなら、

多分100%。

 

 

 

 

 

私にしてみれば。

 

あの車中での

義姉の声は、もはや。

 

がなり立てるという

領域だった。

 

 

 

おまけに。

 

義姉は私の正面に

座っていたから、

たまったものではなかった。

 

 

 

 

 

「金のかからないものなら、

いくらでも出すんだな」

 

 

 

 

 

義姉が声を張り上げる様子を

目の当たりにしながら、

 

私は、半ば反射的に

心の中でこう呟いた。

 

 

 

 

治療費が嵩むから、

これ以上、ECMOを続けるのは

やめてくれと言った人。

 

 

 

 

 

 

あの時の私は。

 

義姉の声のあまりの

けたたましさに。

 

力の限りを尽くして

呪いたくなった。

 

 

 

あの日の衝動は、

今も鮮やかに蘇る。

 

 

 

 

 

 

 

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