私の地元は観光地だ。
毎年ゴールデンウィークは
多くの人で賑わう。
でも。
今年ばかりは、
町はゴーストタウンに近い。
用事があって町へ出ても、
人とすれ違うことすら、ほぼない。
多くのホテルや旅館は休業。
同様に。
飲食店も休業しているか、
テイクアウトのみという
お店が多い。
この小さな町は、
私が生まれ育った町だが、
こんな光景は初めて見た。
ゴールデンウイークの
真っ只中。
連日、まるで初夏のように
空は晴れ渡って明るい。
にもかかわらず、
町は対照的だ。
お日様が燦燦と
照らしているのに、
気味が悪いほど
静まり返っている。
「こりゃ、車道の真ん中で、瞑想できるかも...」
不謹慎だが、
こんなことを思うほどだ。
あるお店の前を
通りかかった。
マスターが、お店の前の
テーブル席に座っている。
長男が高校生の時に
アルバイトしていたお店で
一緒だった人で、その後、
独立して、今のお店を構えた。
その時、道を歩いていたのは
私だけだったからだろう。
マスターは、
すぐに私に気が付いた。
「こんにちはぁ。」
少し離れていたから、
大きめの声で話しかける。
朝の10時半前後。
本来なら、仕込みやら何やらで、
お忙しい時間帯のはずだ。
「お店、どうですかぁ...?」
「ひま。」
無理もない。
マスターは、いつも
笑顔を絶やさない人だ。
こんな時ですら、
笑顔で答えてくれる。
思い出した。
この前日か前々日かに、
マスターが地元ニュースの
インタビューに答えている様子を
テレビで観たことを。
ままならない現状を伝えながらも、
それでも、やっぱりマスターは、
この時も笑顔だった。
応援したい。
微力でも。
もしかしたら。
私の応援など、
無力なのかもしれない。
それでも。
自分に何か
できることがあるのなら、
協力させてもらいたい。
反射的に、こう思った。
このマスター。
いい人なのだ。
長男がバイト中、
よくお世話になった。
バイトが夜遅くに終わった時など、
車で、うちまで送って
いただいたこともあった。
何より。
マスターのお店のメニューは
どれも美味しい。
メインもサイドも
ハズレがない。
マスターの人柄が、
そのまま料理の味と
ボリュームへとトランスフォームし、
お皿に盛られて出てくる。
だから。
たとえ長男がお世話に
なっていなかったとしても、
通いたいと思うお店なのだ。
「ゴールデンウイークはぁ?」
「開いてる!」
「じゃあ、テイクアウトしますー。
メニューくださーい。」
ゴールデンウィークに突入して、
すでに何度かお世話になった。
昨日。
テイクアウトしたシェイクを片手に、
まるで白昼夢ようにシンとした町を
歩きながら、つくづくこう思った。
日頃の行いだよな...
もし。
私がマスターの
立場だったら。
経営しているのが、
飲食店であれ、
なんであれ。
この人には、
生き延びてもらいたい。
なんとか堪えてもらいたい。
私は誰かに、こう思って
もらえるだろうか。
私はそんな人間だろうか...?
今回のコロナ禍が
私に教えてくれること。
それは、内省だった。
甘さ控えめで、美味しい
ブルーベリーシェイクを飲みつつ。
汗ばむほどの
陽気の中。
私の体は、緊張して
冷たく強張っていた。
背筋が伸びる思いがした。