「エイリアン、故郷に帰る」の巻(37) | 35歳年上の夫は師匠でエイリアン! 

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【夫】台湾人 × 【妻】日本人

国際結婚? いえ、惑際結婚ですから!

気がつけば2男1女。

あの男を見ていると、とても同じ人類だとは思えない。
漢方薬を水なしで飲めるなんて
一体どんな味覚をしてるんだ、あのおっさんは。

「エイリアン、故郷に帰る」の巻(36)

 

 

 

 

この頃。

 

私の心を苛んでいたのは、

師匠の容態だけではなかった。

 

 

 

先生のベッドの傍らに

置かれていたECMO。

 

 

血液をきれいにして

体に戻すというこの機械。

 

 

24時間絶えず動き続け、

そのうち、カニのように

泡を吹き始める。

 

 

その泡がブクブク、ムクムクと

機械の脇から大きく漏れ溢れ、

不気味な様で床へと広がる。

 

 

 

 

 

 

 

「ここが台湾じゃなかったら、破産してますよ。」

 

 

 

 

 

 

 

師匠が転院する前の病院で、

ドクターにこう言われた。

 

 

 

私には、台湾の健康保険

事情は分からない。

 

日本の健康保険の内容についても、

決して明るいとは言えないが。

 

 

 

道路で行き倒れているところを

通行人に発見され、

ICUに担ぎ込まれてからずっと。

 

 

回復する兆しも見えないまま、

ICUで24時間体制の要看護。

 

病状と体調は悪化の一途。

施される治療も多岐に渡っていく。

 

 

 

本来なら、莫大な

医療費が請求されるはずだ。

 

 

 

 

でも。

どうやら。

 

台湾は、医療費の制度が

随分と整っているらしい。

 

 

 

今日現在、台湾の健康保険制度が

どうなっているのか、私には分からないし、

当時にしたって、まったく知識はなかったが。

 

 

 

 

 

今、私の手元に残っている

転院前の病院の領収書を見ると。

 

 

 

 

費用総額        NT$ 679,918   (\2,299,728)

健保支払い   NT$ 669,252   (\2,263,900)

自己負担額   NT$ 10,666     (\36,080)

 

 

 

 

2019年8月16日の為替レートで

日本円に換算するとこうなる。

 

 

レートは、当時とあまり

変わらないじゃないだろうか。

 

 

 

 

 

これには驚愕した。

確かに、ドクターの言う通りだ。

 

 

 

 

 

仮に。

 

自己負担が一割だったとしても、

20万円越え。

 

二割なら40万円越え。

 

三割なら60万円を

越える計算になる。

 

 

 

 

この病院での入院期間は

ひと月だったから、

 

この料金であれば、ほぼ無料と

言っていいんじゃないだろうか。

  

 

本当に有難いことだった。

今もつくづく、強くそう思う。

 

 

 

先生の故郷、台湾に

心からの感謝を捧げたい。

 

 

 

 

 

 

 

ただ。

物事には例外がある。

 

あるいは。

限度というものが。

 

 

 

 

 

この、ECMO。

 

転院した当日、私が食ってかかった

若いドクター曰く。

 

 

 

 

 

 

 

「この機械は、使っているうちに壊れます。」

 

 

 

 

 

 

 

壊れる...?

 

 

 

 

 

話を聴くと。

どうやら。

 

使い続けていると、

そのうち使いものにならなくなる

という意味らしい。

 

 

 

 

 

 

 

「どのくらいで壊れるんですか...?」

 

 

「はっきりとは言えませんが、そんなに長くは持ちません。」

 

 

 

 

 

 

 

私の記憶では、せいぜい

数日しか持たなかった。

 

 

 

 

 

 

おまけに。

 

 

 

 

 

 

 

「ECMOが保健の適応になるのは、3回までなんです。」

 

 

「それ以降は...?」

 

 

「自費になります。」

 

 

「いくらかかるんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

ドクターがメモ帳に書いた金額は、

日本円に換算すると7桁に上る数字だった。

 

 

もちろん。

1回で。

 

 

 

 

 

 

 

途方に暮れた。

 

 

 

 

 

 

 

だが。

 

私が途方に暮れた理由は、

ECMOの費用だけではなかった。

 

 

 

 

 

義姉だ。

 

 

 

 

 

 

「ドクターに頼まないで。私たちにはお金がないから。」

 

 

 

 

 

 

懇願するように、こう言う。

 

 

 

 

 

どうやら。

 

3回目以降のECMOを

断念しろと言っているらしい。

 

 

 

 

なるほど。

 

 

  

 

 

「弟の治療にかけられるお金、もうないでしょう?」

 

 

 

 

 

 だから。

 

 

 

 

 

「もう。ダメならダメで、このまま死んでもらいましょうね?」

 

 

 

 

 

こう言いたいんだな?

 

 

 

 

 

そして。それを。

 

よりによって。

他の誰あろう。

 

私に面と向かって、

堂々と言い放つんだな?

  

 

 

一切、言葉を選ぶこともせず。

 

 

 

 

 

まず。

 

 

 

 

 

 

この先、治療を続けていくのにも、お金がかかるけど、

どうするのがいいと思う? お金の当てはある?」

 

 

 

 

 

 

こういった相談を

私に持ちかけることすらせず。

 

 

 

自分の発言によって、

私が一体どんな気持ちになるかには、

まったく頓着もせず。

 

 

 

ただ、ただ。

 

自分の思うことだけを。

自分の意見のみを。

 

好きな場面で。

好きなように。

 

頭に浮かんだ、そのままに。

口にから出る、そのままに。

 

 

 

その場で即、垂れ流すんだな...? 

 

 

 

弟と私の間に、3人の子供が

いることを百も承知で。

 

そのうち、2人は

まだ幼いことも承知の上で。

 

私が先生の弟子であることも

考慮に入れて。

 

 

 

なおかつ。

 

私が先生に、是が非でも

生きていて欲しいと願っていることを

十分に察していて。

 

 

 

 

 

 

それでも。

どうあっても。

 

 

 

 

 

「お金がないから、見殺しにしましょうね?」

 

 

 

 

 

 こう吐くんだな?

 

 

 

 

 

 

そうだな?

間違いないな?

 

 

他に言い方はなかったんだな?

相違ないな?

 

 

 

実に麗しい姉弟愛だな。

 

 

 

あまりの美しさに

涙が出る。

 

今、この瞬間も。

 

 

 

 

 

 

 

ところで。

あんた。

 

 

 

 

 

一体、私を誰だと思ってるわけ?

 

 

 

 

 

ねえ...?

 

 

 

 

 

一体、私を誰だと思ってやがるんだ。

このクソババアは。

 

 

 

今一度。

もういっぺん教えてやろう。

 

どうやら。

随分と耄碌しているらしいから。

 

 

 

 

 

私は。

 

 

あんたが勝手に命を

切り捨てようとしている男。

 

 

その男の正式な妻だ。

 

 

台湾政府と日本政府に認められ、

両政府が発行する戸籍のどちらにも

配偶者として記載されている、

正式な人生のパートナーだ。

 

 

 

 

従って、この場合。

何を置いても、真っ先に。

 

 

妻である、私に意見を訊いてみるのが。

妻である、私の判断を仰ぐのが。

 

 

 

筋というものだろうが。

道理というものだろうが。

 

 

 

 

 

 

違うか?

 

 

 

 

 

どうして。

一体どういうわけで。

 

いきなり。不躾に。

 

あんたが自分で勝手に出した結論を

押し付けられなければならないのよ...?

 

 

 

 

妻である、

 

あのおっさんが

自分の意志で選んだ妻である、

 

この私が。

 

 

 

 

 

 

あんたの弟だから?

血の繋がった身内だから...?

 

 

 

 

DNAの繋がりが

そんなに偉いのか。

 

 

 

 

金と命を天秤にかけて、

あっさりと金の方を取る繋がりが...?

 

 

 

 

 

笑止千万。

 

 

 

 

 

 

前にも書いたが。

 

姉の名誉のために

再々度言うと。

 

 

 

義姉は良い人だ。

 

そう。

良い人。

 

 

 

ただ、ときとして。

 

こちらが真剣に殺意を覚えるほど。

本当に殺してやろうかと思うほど。

 

 

もう、どうにもこうにも。

 

救いようがないくらい

無神経だというだけで。

 

 

 

今回のように。 

場合によっては。

 

周りにいる人間の心に

壊滅的、致命的、且つ不可逆的な

ダメージを与えるだけのこと。

 

 

 

 

たった、それだけ。

それだけのことですよ。

 

ええ。

それだけですとも。

 

 

 

 

法に触れるようなことは

しちゃいない。

 

 

何かを盗むわけでもない。

誰かを殺すわけでもない。

 

 

お巡りさんなんて、

無縁無縁。

 

 

 

 

 

でも。

この世の罪には、二通りある。

 

ひとつは、法に触れるもの。

もうひとつは、人の心に触れるもの。

 

 

 

 

 

私にしてみれば。

 

あの時の義姉の発言は、

畜生の所業だった。

 

 

 

 

もしかして。

 

年寄りならば。

年長者ならば。

 

 

 

何をどんなふうに言っても

許されるとでも思ってんのか...?

 

 

 

そんなわけないだろ。

ふざけやがって。

 

 

 

 

 

この非常時に。

この修羅場に。

 

 

よくも。

よくも。

 

一層、この心を抉ってくれたな。

 

 

 

 

 

 

 

許せない。

 

 

 

 

 

 

 

体中から猛烈な怒りと悲しみが

湧き上がり、体の外へと噴き出していく。

 

 

 

 

 

 

きっと、あの日。

義姉の目には。

 

私が暴れたように

映ったんじゃないだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

望むところだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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