「エイリアン、故郷に帰る」の巻(26) | 35歳年上の夫は師匠でエイリアン! 

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【夫】台湾人 × 【妻】日本人

国際結婚? いえ、惑際結婚ですから!

気がつけば2男1女。

あの男を見ていると、とても同じ人類だとは思えない。
漢方薬を水なしで飲めるなんて
一体どんな味覚をしてるんだ、あのおっさんは。

「エイリアン、故郷に帰る」の巻(25)





お願い。誰か助けて。





暗くて重たい何かが
頭の中から湧き上がって、
体中に広がっていく。




先生を助けて欲しいのか。
今の自分を助けて欲しいのか。




もう混乱して分からない。




恐らく私は、最初に洪さんから電話を
もらった時と同様、先生の様子を
色々と訊いてみたんだと思う。


ただ、私にはこの時の
会話の記憶がない。


覚えているのは、
ただただ動揺したこと。



それだけだ。







「変わった様子はない」って言ってなかったか...?






毎晩、台北のファンツン宅に
電話して先生の様子を訊いていたが、
危ないなんてことは一度も言われなかった。






一体、何があったんだろう...








「できるだけ早く台湾に行きます。バオメイにそう伝えてください。
飛行機の予約が取れたら、こちらから連絡します。」









恐らく、こんなことを
伝えたんじゃないだろうか。


そして、お礼を言って
電話を切ったんだと思う。







自分の心臓の音が聞こえる。
大きく波打っているのが分かる。


頭を何かにギュッと押さえつけられて
いるような感覚がこびりつく。






でも。だから何だ。
こんな恐怖なら、もう体験済みだ。






危ないのか。
おお。そうか。


でも。それが一体何だというんだ。


危ないという状態は、裏を返せば、
先生はたった今、この瞬間を
ちゃんと生きているということだ。





あの男が死ぬはずはない。
あの人は不死身に違いない。


だって先生は神様だ。

私にとっては、
目に見える神様だ。


神様が死ぬなんてことが
あってたまるか。

そんな馬鹿なことが
起こるわけがないのだ。




絶対に。







希望は賢者の結論。
絶望は愚者の結論。



美し過ぎて反吐が出そうではあるが、
こんな言葉もある。


大体。
先生自身が希望そのものだ。


そう確信したからこそ、私はあの人に
弟子入りすることを願った。






世の中には、こんなにすごい人がいるんだ...





先生の腕を目の当たりにして、
私の心は踊った。


弟子入りしない人生なんて、
あり得なかった。


師匠を知ってからずっと、この人の存在が
多くの人にとって希望なのだと、固く強く信頼してきた。





何がどうであれ、
私は先生の回復を信じる。


希望がなくなれば、
残るのは絶望だけだ。







さあ。台湾に行かなければならない。
もう一度、腹をくくり直そう。







台湾から電話があったことを
母に伝える。


留守中の子供たちのことを
お願いするのが先決だ。




それから、飛行機のチケット。

前回と同じところに電話して、
担当してくれたおねえさんに出てもらい、
同じような手はずでチケットを買った。

今回も2週間有効のものだ。





次はホテルの予約。

ネットで検索して、先生が入院している
病院から徒歩圏内の安い宿を見つけた。

1週間分の予約しか取れなかったから、
台北に滞在中に、次の1週間泊まる
ホテルを探さなければならない。





あとは荷造りだ。

着替えや鍼。
役に立つかもしれない漢方。

今回は阿膠という生薬も持って行く。

私が妊娠中、先生が
よく飲ませてくれた薬だ。

この薬は高価だが効果もある。


婦人科系に使うことが多い薬だが、
補血や止血など、血液に関わる症状に効くのだから、
腎臓に症状がある先生のために使えるかもしれない。


あとは、前回うっかり
持って行くのを忘れたパソコン。





最後は電話だ。

台湾の洪さんに電話して、
台北に行く日をバオメイに伝えてもらう。




健康診断の予約はキャンセルした。









「母ちゃん、パパの様子見てくるから。きっと大丈夫やからね。
ちゃんと、おじいちゃんとおばあちゃんの言うこと聞いてね。」







子供たちにこう告げて、家を出た。

台湾から戻って、
ちょうど2週間目の日だった。


のと里山海道に乗って、
小松空港へと向かう。


ひと月の間に、何度この道を
往復しただろう。




太陽は日本にいても
台湾にいても同じだ。

今日も忌々しいほど眩しい。







私はきっと、この日も泣いた。










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