「エイリアン、故郷に帰る」の巻(15) | 35歳年上の夫は師匠でエイリアン! 

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【夫】台湾人 × 【妻】日本人

国際結婚? いえ、惑際結婚ですから!

気がつけば2男1女。

あの男を見ていると、とても同じ人類だとは思えない。
漢方薬を水なしで飲めるなんて
一体どんな味覚をしてるんだ、あのおっさんは。


「エイリアン、故郷に帰る」の巻(14)





朝起きて、顔を洗って、
待合室の窓から空を眺める。

良い天気だと、
気持ちもいくらか晴れる。



病院の地下の食堂は何店舗かあって、
朝から開いている店でご飯を買う。


ICUのフロアに戻り、待合室にある椅子を
窓際まで引っ張って来て、
外を眺めながらご飯を食べる。



その後は、病院の中庭を
散歩してみたり、洗濯をしたり。

地下のセブンイレブンで
買った新聞を読んだり。





午前11時の面会に合わせて、
バオメイが毎日来てくれる。

面会時間は15分だが、
私はたいてい長く居座ってしまう。


師匠の容態は、一進も一退もしない。


投薬で保たれているバイタルサインに
異常はないが、昏睡から覚める様子もない。


先にICUを出たバオメイが
私を待っていてくれて、
ランチに連れ出してくれる。

その後、お茶を飲みながら、
筆談を交えて色んな話をする。





私はこの義妹にどれだけ助けられ、
救われたか分からない。


彼女には、毎日ランチやお茶を
ご馳走になっただけではなく、

私がICUのフロアに寝泊まりすると決まると、
ドライヤーや洗面用具などを一式買ってくれたのだ。

私が払うと言っても受け取らない。

師匠や私と血の繋がりが
あるわけでもないのに。



バオメイには、今でも本当に感謝している。






「妹妹、ありがとう。」





こう言ってバオメイを
見送った昼下がりには、

ICUのフロアに戻って、
待合室の窓から外を眺める。



病院の駐車場には、
絶えず車が出入りしている。

面会か、それとも通院なのだろうか。

いずれにしても、世の中には、
病院と関わりを持つ人が
こんなにも多いのかと驚く。

私もその一人だ。




敷地のすぐ隣は学校だ。

行き交う生徒と見ていると、
日本にいる子供たちを思い出す。


学校の後ろには大きな橋。
流れていく車。

車をあんなに速いスピードで運転できるほど
元気な人が、世の中には数え切れないほど
いるんだと思うと、羨ましくて切なくなる。



視界の左端にはICU。

そこには、私が一生ついて
行きたい師匠がいる。

とにかく、少しでも元気になって
ICUを出てほしい。

そして、先生と話がしたい。






そう望むのは、贅沢なのだろうか...?






その答えは、どれだけ待っても、
降っても涌いてもこない。


そのうち日が暮れてくる。






6時を過ぎた頃、
日本にいる家族に電話する。

毎日、午後7時の面会前に
かけることにしていた。



小学校に上がった次男の
初めての運動会。

7歳の誕生日。

どっちも一緒にいてあげられなかった。







「ごめんね。帰ったら一緒にお祝いしようね。」






こう約束した。





午後7時の面会に合わせて、
仕事帰りのファンツンが来てくれる。

数分前になると、
ICUの扉の前に二人で立つ。


一日のうちで、私が一番待ち遠しくて
恐ろしいのは、面会前のこの時間だ。






先生の具合が悪くなってたら、どうしよう...






時間が来ると、外から
インターフォンを押す。

そうすると、中から扉のロックが
解除されて、入ることができる。



ICUに足を踏み入れる時は、
いつも胸が騒ぐ。

ドキドキしながら師匠のベッドに向かい、
まずバイタルサインを確認する。


何か変わった様子はないかと
ドクターやナースに訊いてみる。

その後は、電話で聞いた
子供たちの話を師匠に聞かせる。




長男の習字の競書大会。
次男の運動会。誕生日。
娘の保育園での様子。


師匠と二人で行った場所。
子供たちと行った場所。
その時の思い出。


先生が元気になったら、一緒にしたいこと。
一緒に行きたいところ。

その日の天気。

バイタルサインが落ち着いていること。
きっと良くなるに違いないこと。



心に浮かんだことは何でも話した。







ICUは入るときも恐ろしいが、
出るときも恐ろしい。






これが最後の面会になったら、どうしよう...






ついこう考えてしまって、なかなか
師匠のベッドに背を向けられない。


でも、たとえどれだけ粘ってみても、
時間が来れば出て行くしかない。




後はもう、待合室の椅子に
腰かけて外を眺めるだけだ。


すっかり暗くなった空と、
静かに動く街と、視界の左端のICU。





こうして、何の役にも
立てない一日が終わる。

ICUにしがみつくだけの
時間が過ぎてゆく。







求めなさい。そうすれば与えられる。
探しなさい。そうすれば見つかる。





このふたつの文章が、
頭の中でこだまする。





先生の声が聞きたい。





こう願えば、先生は
目を開けて話し出すだろうか。





元気に歩く姿を見たい。





こう願えば、先生は
起き上がって歩き出すだろうか。





信じる者は救われるという。





先生。あなたも信じていますか。
私と同じように。









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