施術を終えたお客さんが帰ったのが
午後2時30分前後。
グズグズしている時間はない。
隣家に住む母に、
台湾からの電話の内容を話した。
話しながら涙がこぼれた。
でも、泣いている暇もない。
私のパスポートは有効期限が切れていた。
新しいものが必要だ。
自宅から車で15分位の場所に
パスポートセンターがある。
電話して事情を話してみた。
そこで即日発行することはできないが、
金沢のパスポートセンターなら可能だと言う。
すぐに金沢のパスポートセンターに電話した。
事情を話すと、これからすぐに来られるなら、
今日中に発行できると言ってくれた。
ただし。
5年パスポートに限ること。
師匠が危篤だと証明する必要があること。
後日で構わないから、病院で
入院証明書をもらって提出すること。
この3つが条件だった。
すぐに台北の洪さんに電話した。
パスポートセンターの人に教えてもらった通り、
洪さんにお願いして、師匠が危篤状態で入院している
ことを文書にしてもらい、パスポートセンターに
ファックスしてもらうことになった。
パスポートセンターは通常午後5時までだが、
それ以降でも、私が来るまで待っていてくれると言う。
本当に有難かった。
職員の方のご親切が身に染みた。
1分も無駄にできない。
早く金沢に行かなくては。
母に3人の子供たちの帰宅後のことを
お願いして、車で市役所へ向かう。
パスポート取得には
戸籍謄本と住民票が必要だ。
窓口のお姉さんに、
こうお願いした。
「申し訳ないんですが、この足で金沢に行かないといけないんです。
なるべく早くお願いできませんか?」
お姉さんの表情が一瞬で引き締まった。
そして、精一杯対応してくれた。
必要な書類は、あっという間に手渡された。
この時、すでに午後4時半前後。
金沢までは、車で1時間半くらい。
とにかく急がねば。
のと里山海道と呼ばれる高速道路に乗る。
西日が眩しい。
砂浜沿いをまっすぐに続く道路を走っていると、
午後からの一連の緊張が、ふと解ける瞬間が来る。
先生、一体何があったんですか...?
あの時、運転しながら私は泣いただろうか。
多分、この時は泣かなかったと思う。
まだ、すべてが非現実だった。
いきなり危篤だなんて言われて、
どうして信じられるだろう。
「慌てなくていいですからね。安全運転で来てくださいね。」
パスポートセンターの職員さんの
言葉が本当に有難かった。
そして、その通りでもあった。
もし、動揺した私が事故を起こして入院でもしたら、
師匠に会いに行くことはできなくなる。
子供たちのこともある。
私に何かあったら、
子供たちはどうなるんだろう。
今の私は、ここで何かを
しくじるわけにはいかないのだ。

