「エイリアン、故郷に帰る」の巻(2)
のと里山海道を降りて、金沢駅方面に
向かっていると、携帯電話が鳴った。
「○○さん、今どこですか?」
パスポートセンターの人だ。
「今、金沢駅に向かっています。
あと15分くらいで着けると思うんですけど...」
着くのは、午後6時前後に
なってしまうだろう。
午後5時までの受付なのに、
とても申し訳なく思う。
「場所は分かりますか?」
「すみません。よく分からないんです。」
「カーナビありますか?」
「すみません。ないんです。」
重ね重ね申し訳なく思う。
「分かりました。こちらに着いて、もし迷ったら電話してください。」
「はい。」
案の定、迷った。
パスポートセンターは、金沢駅近くの
大きなビルの中にあるらしい。
駅の周辺をグルグル走り回るばかりで、
いつまで経っても目的のビルを見つけられない。
目印を教えてもらっていたが、それを見つけることもできず、
走っているうちに、どんどん駅から遠ざかって行く始末だ。
駅の周辺に戻って、電話した。
「すみません。駅の近くまで来たんですけど...」
「周りに何が見えますか?」
「ええと... ○○っていうお店が見えます。」
「そこでいいんですよ! すぐ前まで来てます!
ちょっと待っててくださいね。今そこまで迎えに行きますから。」
なんだ。そうだったのか...
ビルの名前がどこにも見当たらなかったから、
自分が目的地の前でウロウロしているとは思わなかった。
数分後、パスポートセンターの人が
私を見つけてくれた。
慌てて自宅を飛び出して来て、
写真を準備できていなかった私に、
受付時間を大幅に過ぎているにも関わらず、
職員の女性は嫌な顔ひとつせず、
どこまでも親切にしてくれた。
パスポートセンターの入っている
ビルの1階にあるコンビニには、
証明写真が取れるブースがあるのだが、
その女性は、私をそこまで案内してくれ、
写真が出来上がるのを一緒に待っていてくれた。
その後、一緒にエレベーターで
パスポートセンターまで上がると、
もう誰もいなかった。
シンと静まり返ったフロアで
パスポートを待つ間、
職員の方に対する有難さと
申し訳なさを感じながら、
同時に不安と心配、心細さと恐怖、
情けなさと孤独を感じた。
パスポートを手渡してくれた男性職員も、
女性職員同様、嫌な顔ひとつせず、
パスポートを渡してくれた。
これで台湾に行ける。
今すぐにでも飛んでいきたいと思う反面、
行くのが嫌で嫌でたまらなくもあった。
危篤という言葉のせいだ。
何が楽しくて、死にかけているという
夫に会いたいものか。
それでも。
会いに行かずにいられないことは、
誰よりも自分が一番よく知っている。
会いに行って姿を見れば、
きっと地獄を味わうだろう。
でも、会いに行かなければ、
もっと地獄を味わうだろう。
同じ地獄を見るのならば、
少しでもましな方の地獄を取るしかない。
それにしても、この日が
金曜日で本当に良かった。
もし台湾からの電話が土曜日だったら、
パスポート取得に駆けずり回るのは、
月曜日まで待たなければならなかった。
そうなれば、2日のロスになる。
この状況で2日も足踏み状態を
強いられるのは、生殺しに遭うのと同じだ。
今後は、パスポートは期限が切れる前に
必ず更新しておかなければならないと
肝に銘じた。

