「KABRI_39」オンボロ小屋 | 針金師フーテンの日々☆スイス・チューリッヒ・ニーダードルフ物語

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ヨーロッパでスイスはチューリッヒでの路上テキ屋物語、ドロップアウトした青春ストーリー


オンボロ小屋

オンボロ小屋。

次ぐ日、仕事場に行くと、Gabiやみんなに聞かれた。
「yoshi、昨日はどうしたの?」ここはゲットーの雰囲気と違いフレンドリー。

上手く答えられないから、「ウン、体の調子が悪くて……」と病気ってことに、
そしたらGabiに「お前、お酒の飲み過ぎでしょう」って言われてしまった。
周りのみんなも、しょうがないね、って顔、友達を見送ったとも言えなかった。

午後、オフェールの部屋に行くと、ロナンとオフェールが巻いている。
「yoshi、3本、大きいのを巻いて、キブツの外に吸いに行こうよ」と誘われる。
オヤ? ロナンからの誘いは珍しい、いつもはオフェールが誘い役。

ロナン(Ronen)からの誘いは何か魂胆がある。
親父(Lolosh)から、なにか言われたな、と感じるのです、親父のロロッシとは
仕事場が一緒だし、世間話もする関係でもある。

ロロッシ(Lolosh)の奥さんは、ここキブツ「KABRI」最初の子供です。
その奥さんの親父、ロナンの爺さん(Israel)は70歳くらいだそうで、
私はどの方がイスラエル爺さんか知りませんが、今、キブツの本を執筆中だとか。

32年前、40人くらいのメンバーが集まって出来たキブツ「KABRI」です。
イスラエル爺さんは、その頃の創設メンバーだったのです。
その孫がロナン(Ronen)というわけです。

シガレット・ペーパー2枚を使って作った、大きなジョイント3本。それを持って
3人で出かけました、途中、ゲットーのシャワールームすぐ下を通ります。

ゲットーの近くなのですが、ボランティアはほとんどここに下ってきません。
木と草が被い茂っていて、そこにオンボロ小屋が一軒あります、バラック建ての
ボロ小屋ですから、中にはガラクタが詰まっているだろう位にしか思えません。

時々、私も一人の時間を過ごしにこの静かな場所に来てはいたが、ボロ小屋の中に
何が入っているとか気にも留めませんでした。

オフェールはそのボロ小屋の鍵を開け、中に入っていった、私は何をしているのだと
思い、「オフェール、何してるの?早く行こうぜ」と急かせました。
すると「wait wait!」そして「come!」ってオフェールは私を呼ぶのです。

中に入って、ビックリ、ボロ小屋の中に水道が引いてありました。

オフェールはその蛇口を奥の方に持っていき、水を出し、器に貯めているのです。
私には、何故、器に水を貯めているのか分かりませんでした、それを確かめようと
オフェールのいる奥の囲いを覗いてみました。

タタミ一畳くらいのスペースで、板で囲ってあり昼間でも薄暗い場所です。

そこに大きな動物が2匹、ビックリしました。

異様で気味悪い光景がここに……ここに隠され飼われている白豚2匹です。
ロナンが「これは俺たちの動物だ、かわいい動物サ」と。

ロナンとオフェールの二人が世話をしている2匹です、ボランティアの中で
こんなところで豚を飼っていると知っている人間はいないのでしょう。

私だって、時々はここの場所にも来たけど、気がつきませんでした。
それがシャワールームのホントに近く、10メートルくらいしか離れていません。

ユダヤ人は豚をタブーとし、憎悪し、不浄の動物として嫌います。
キリスト教徒は豚を食しながら、豚を侮辱の対象とし、
ユダヤ人を豚呼ばわりし嫌います。

ゲットーは豚小屋とさほど変わらない、そんな意味がありそうな、そして
我々が使うシャワールームの近く、着ている衣類を脱ぐ場所である。
そこに、ユダヤ人が憎悪する、不浄の動物を飼うとは、どういう意味なのだろう。

水と餌を2匹の豚に与え、又、そこに鍵をしてから小屋を離れ、鉄条網の柵をくぐり、
「KABRI」の外に出た、ここもボランティアは来ない場所である。
「ロナン、この辺でいいだろう、誰も来ないし」と私が言うと、
「ベンガ、ベンガ!」と「来い、来い!」と、彼がスペイン語で私に言う時は
私とロナンの二人だけが理解できる言葉として使います。

呼ばれる侭について行くと、石で囲ってある遺跡のような場所に出ました。
住居跡です、飲料水用の貯水槽まであります。
その貯水槽の蓋が板でしてあり、それを開けて中を覗くと、きれいな水が貯まって
ました。

ロナンに聞いたら、ここにはアラブ部落があったのだと、今は石とサボテンの
荒れた砂漠としか見えない。

32年前、キブツ「KABRI」が出来た頃、中東戦争が始まり、こういう土地を
アラブの人達から奪っていったのか、とそんな部落跡でした。

 

――つづく――