[ある夏の終わる頃_2」名前以外に何も知らない二人を不思議な何かが引き寄せる | 針金師フーテンの日々☆スイス・チューリッヒ・ニーダードルフ物語

針金師フーテンの日々☆スイス・チューリッヒ・ニーダードルフ物語

ヨーロッパでスイスはチューリッヒでの路上テキ屋物語、ドロップアウトした青春ストーリー

ヤエール―― 彼女はイスラエルからヨーロッパを旅し終え
これからイスラエルに帰るところでした。

 



船を下りると旅行者目当ての貸しバイク屋が何軒かあり、
私達もバイクを借り、島を散策する事にし、 
荷物をバイク屋に預けてヤエールと二人乗りで出かけたのです。
 
50cc の小さなバイクは、ビー!ビー!と音をあげて、
ほとんど車の通らない島の小道を地中海の生暖かい風を切り、
勢いよく走る。

ヤエールは後ろから「ヨシ、そんなに飛ばさないでー、怖いー!」
と叫びながら私の体にしがみついていました。

オリーブの木の茂った丘を越えるとビーチが眼下に広がって、
そこでしばらく人も疎らなビーチを眺めながら、
遠くの波の音と風のそよぐ音が耳に心地よく響く……

「ヤエール、どうして船の上で俺を誘ったのだい?」ときいてみた。
すると彼女は、
「色々な話が出来そうだと思ったから、タダそれだけ」
とそんなことはどうでもいいではないか、そう感じたから、
感じた侭に振る舞っただけだヨ。

そう言いたかったかのような返事をした。

持ってきた食べものをピクニック気分でビーチに広げ、
彼女は手際よくパンにチーズと生野菜をはさみ、
サンドイッチを作り私にくれた。
オレンジのデザートを食べ終え、静かな時間が流れてゆく……

こんな時、ジョイントの一本もあったら最高なんだが……
しかし現実は映画のようには行かない、アハ~。

彼女はビーチに備えてあるシャワーで体を洗い流し、
おまけに洗濯までしてきた。
私も汗くさい体を洗い、下船してからのあわただしかった気分から
解放された。 

ビーチでしばらくの時が過ぎた後、
島の外周をまわって港に戻りバイクを返す、
そして今夜の安宿さがしに行くつもりだった私に、
「野宿でいいよ」とその場所を探しに海岸に向かうヤエール。

岩が覆い被さった、岩陰に砂地を見つけそこで野宿することに、
焚き火の跡があったり、すぐ前は海岸だったり、
雨が降ってきても濡れずにすむいい場所でした。



日も沈み始めた頃、集めてあった枯れ小枝で火を焚いたのです。
波のよせてはかえる音……赤く染まる空、
互いのことなど、名前以外に何も知らない二人だったが、
不思議な何かで引き合うような、そんな感じもした。

――続く――