一般に頑張って得たことへの執着に財産や名誉がありますが、私の場合は職業技術です。
職人の世界では「仕事は眼で見て覚えよ」、そういう発想でろくすっぽ説明もしてもらえません。
今は分りませんが、私の頃はまだそういった考えが残っていました。
習得するのに3年だ8年だのと言いたがるのですが、実際には下積みも含めた期間で、具体的にプロセスを踏んで教えてもらうと、意外と早く体得できるものだと思います。
手品のタネあかしみたいで、教えるとすぐに追いつかれることもあってか、業界の職人気質は寛容さが失われ、保守的な思考で威勢を張りたがる傾向がありました。
一度社会に出た後、専門学校を経て入った私にとって、職人の世界はカルチャーショックでした。
近い将来、機械に代わってしまう仕事を見限って転職を決めたので、意地もありましたから職場では上の人にへつらったり我慢もしました。
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ちょっと知り合いになると軽い気持ちでこの職業技術を教えて~と言ってくる方がいらっしゃいます。
私はものすごく偏狭な気持ちになって、利害が生じるわけでもないのにそう簡単に教えてたまるかと思うのです。
また、この仕事について「生活必需品ではないから」と言われたことが、とても悔しくて頭に残っています。
「生活必需品ではないから、生計を立てていけない」と暗に言われた気でいるのです。
この一言は職業のみならず、自分の人生をも全否定されたように受け取ってしまいました。
しかし、よく考えてみると、それは物事の一面をとらえた発言であって、何もその職業や私、まして人生を否定されたわけではないと、今さらながら思いなおしました。
無理して頑張って得たものは自分にとって大切ですから、失ったり否定されたくないものだと思います。
その気持ちが過剰に働くと強い執着心となって、先ほどのように全否定されたという間違った解釈をしてしまったのかなと振り返るのであります。
今までの私は簡単な手品を必死に盗られまい、壊されまいとしていたのかもしれません。






