手術室のヘルパーに、じゃあ病棟に移るのでストレッチャーに乗ってもらいます、と言われるが、下半身感覚無い状態なので自分で移れるわけ無い。そう言うと、乗せてあげるから心配いらないよ、と言って私を抱えてストレッチャーに移す。下半身だけまだ手術台に置いてきたままのような妙な感覚。
ゆっくりとPost Operative Roomに移動。ここでも抱えてベッドに移される。6つベッドがあるようだが70ぐらいのおじいさんが一人いるだけだ。おかげで静かで助かる。大家さんの奥さん(この病院の婦長の一人なのだ)来てくれ、手術は無事済んだから安心して少し眠るといい、と言う。この時点ではまだ麻酔が効いていて全然痛くなかったのでなんとなくほっとしたのもあってうとうとしたらしい。
その後どれくらいたったのかわからない。痛みと胸苦しさで目覚める。気分が悪い。おなか全体が痛み、特に胃の辺りが引っ張られるようななんともいえない不快感。息をするたびにそれがひどく痛むが息をしないわけにいかないし、本当に苦しい。足の方から麻酔が切れ始めていて、左足は完全に感覚が戻っている。右も足先がわずかに動かせた。やがて麻酔がすべて切れた時はどれだけ痛いのだろうかと怖くなる。
予想通り、痛みは増すばかりで、耐え切れずに痛み止めを打ってもらう。でもちっともましにならない。しばらくして再度、打ってもらうようナースに言うが、そんなに立て続けには打てないという。手術したんだから多少痛むのは当然だ等という。多少じゃないって、と抗議するが相手にされず。そのうち吐き気も出てきて、いっそうつらくなる。あとでこの吐き気はメトロニダゾールの点滴のせいなのだとわかるのだがその時は麻酔の後遺症かなんかだと思っていた。胃の中には何も入っていないのでカラ嘔吐ばかりを繰り返す。止めようにも止まらない。吐くと腹筋を使うせいで傷が絞られるように痛んで地獄の苦しみ。こんなにつらい経験をしたのは生まれて初めてだ。ナースに吐き気止めを打ってくれと懇願する。注射もあまり効かず、自然と声になって痛い、痛いと力弱く繰り返し言い続けていたので、向かいのベッドの付き添いさんまで心配して何度も覗き込んでくる。痛みに耐えているうち過換気気味になったのか、手や口の周りがしびれてきたので自分でビニール袋を口にあてがい呼吸する。この時はナースを呼んで説明するのも面倒だったので。
そうこうしているうちにDr.SKNが来る。ドクターを見るや否や私は、どうしようもない痛みでもう参ってしまっている事を告げる。すると彼は、お腹を開けて見たら中がひどい事になったいたので当然だろう、虫垂は破裂していたのだから、と言う。私はそれを聞くとまさかと思っていたがやっぱり、どうりでドレーンを入れられていたわけだ、と思った。それでは普通以上に痛むのは仕方が無いらしい。
またDr.SKNは、尿は自分で出せそうか、もしあと一時間以内に出なければカテーテルを入れて出さないといけなくなる、というのだ。私はこの上導尿されるのは極力避けたかったので、なんとか自分で出来ると思う、と言っておいた。
しかしベッドに寝たままで排尿するというのは今までやったことが無かったが想像するより難しい事を知る。便器をあてがっても仰向けのままでは出ないのである。その上痛みで腹筋を全く使えない。
付き添いの女の子に頼んで頭を少し起こして支えてもらい、自分でも腕を使って腰から上が30度くらい起きるような姿勢を取ってみた。そうしてようやく排尿できたのだった。
その夜は一晩中痛みでほとんど寝ずじまいであった。
翌朝起きてもまだ痛みはあまり治まらずだったが、声に出るほどではなくなっていた。少し考える余裕が出て、自分のオペについて振り返ってみる。オペ室ではドクターは一言もしゃべらずだったので私はただ単純に虫垂切除をして閉じて終わったものと思い込んでいた。ただオペ室を出る前にドレーンを留置されている事を知り、これはもしかしたらちょっと厄介なケースだったのかも、という疑いを持ち始めていた。結果は昨日の夜、Dr.SKNが言ったように穿孔していたのだ。ということは中の膿が腹腔内に出てしまっていわゆる腹膜炎を起こしていたことになる。そういえばこの間撮ったエコーでも虫垂周囲に膿瘍を思わせる液体貯留及び、腸管の間に少量の腹水がたまっているのが認められていたのだった。自覚症状が無いだけにこのエコーの所見が正しいのか半信半疑であったのだが、開腹してみてやはりそれは当たっていたと言わざるをえなかった。
でも手術にかかった時間は45分くらいであった。日本で普通の虫垂炎のオペにかかる時間は30分から1時間、穿孔していると2時間以上はかかる、といわれていた。私の場合、穿孔していた上、大家さんの奥さんがオペの介助をしたナースに聞いた話だと癒着もしていたらしいので、癒着した虫垂を剥離した上、腹腔内を洗浄し、ドレーンを入れて閉じるという作業が行なわれたと思われる。それだけの作業を45分で終わるというのは余りに速過ぎはしないか?ちゃんと悪いところを切り取ってあるのか、洗浄は十分にできていたのか等、気にならずにはいられない。これまでいろいろな人から、Dr.SKNの腕は中西部のネパールでは随一と聞いていたが、不安はぬぐえなかった。後日コンピューター技師のA氏(県立病院のスタッフだがうちのオフィスにも来る)にも聞いたところ、Dr. SKNはオペが速い事で有名だという話。信じて良いのだろうか?