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第一章 【ハッピーワーク】 その3

「堀渕さん、なんかこう……楽に稼げる仕事ないの?」


「楽に? ……楽には無理だな。楽しく稼げる事考えたら?」


「楽しく?」


「好きな事、やり甲斐がある事を仕事にすんだよ」


「好きな事じゃ食っていけないってのが親父の口癖だったけど?」


「好きな事を仕事にすべきじゃないってのは間違いだ。 好きなだけじゃ仕事になんないってだけで、
趣味、特技の枠を超えて仕事の水準にまで昇華すれば 誰にだって好きな事を仕事に出来る」


「前にも話したけど、俺の親父は……別れた方の親父だけど…… お金は苦役に耐えた報酬だっていつも言ってたし、俺もそう思ってる。 悪いけど、堀渕さんの話し現実味持って聞けないんだよね」


「寂しい事言うなよ」 俺はラークに火を点けた。
「確かに親父さんの言う事も一つの現実だ。 親父さんの言葉と俺の言葉、信じた方がお前の未来の現実になる」


「唯心論ってやつでしょ、何回も聞いたよ」


「人は考えた通りの人間になるってね」


健康煙草、レイシに火をつけるボブ。
「俺が聞きたいのは堀渕さんの精神論じゃなくて現実的なお金のつくり方なんだよ」



多分ボブには現実的と世俗的は同義語なんだろう。


「充分現実的だよ。好きな女に尽くすように世の中に尽くせばいんだ。 試しにやってみろ。愛情のかわりに報酬と評価が自然についてくっから」


「尽くすって、今どき演歌の歌詞にしか出てこないよ。そんなんじゃなくてさ…… たとえば悪いことでも上手くやって大金手にするとか。遊んで暮らせる位の。 それっきり足洗うみたいな……そんな話なら魅力的なんだけどな……」


「価値ねぇよ、そんな金」


「お金はお金だろ、価値は同じです」


「いいかボブ。金ってのはどんだけ世間に貢献したかの一つの目安なんだ。痛みを通して患部に気付くように、お金を通して生産と消費のバランスを感じる事が出来る。お金が足らないのはメッセージだ……もっと貢献しろ!成長して生産性を上げろ! っていう」


「それはそうかも知んないけど、働いて稼ぐ場合でしょ、
でも奪っても盗んでも拾ってもお金はお金だから楽した者が得だと思うよ」


「人を泣かせて手にした金には、等価の罪がついてまわんだよ。 人の犠牲の上に成り立つ幸せなんてありえねぇから、マジで」


「人の犠牲ね……いるんだけど、実際そんな人が……」



一つの局面で全てを推し量る。俺も長い間犯し続けた間違いだ。
そいつがどんな奴だろうと絶対不変の法則に逆らえる奴なんていやしない。


「そんな奴、いたら会ってみたいね。いっぺん連れてこい」


「……そのうち連れて来るよ……」



「それよりさボブ、入れといてくれた? 予約」


「予約? なんだっけ」


「お前が言い出したんだろ、サキのマンガ、賞取ったから食事会しようって」


「なんか言ったね、それいつだっけ?」


「今晩だよ今晩。しっかりしてくれよ、俺とお前とサキとハセプの4人な」


「あっゴメン、今晩駄目だわ俺」


「同じアパートの住人としてどうかな、それって。 じゃあお前は別にお祝いしろ! とりあえず3人予約な、いつもの店」


「はいはい、面倒臭いのミナ俺の仕事ね……」
立ち上がり出ていくボブ。


「助手の仕事だよ。文句言ってっと前借させねぇぞ!」

「いつか俺が前蹴りキメてやるよ、このファシスト」

「なんか言ったか?」
勢い良く閉まるドア。


「アイツ性根腐ってるっぽいな、最近特に」


幸せかどうかは別にして、ボブの言ってた男は不幸の自覚なしに その日の夜もこの街で罪を金に換えていた。




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