400人殺せ-怪盗ドレリック- ~イタリア生まれの大人気怪盗コミック、のパロディ~ | つれづれ映画ぐさ

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忘れ去られそうな映画を忘れ去る前に

1962年、イタリアで或る一人のダークヒーローが誕生した。アンジェラとルチアナのジュッサーニ姉妹が生み出した「DIABOLIK(ディアボリック)」である。恐らくイタリアコミック史上、最高に人気の有るヒーローであろう。孤児として犯罪組織のアジトで育ち、子供の頃から様々な犯罪のテクニックを学んで育った彼は、組織のボスを殺し「怪盗」となった。狙うのは犯罪者のみ。変装を得意とし、様々な分野に精通する頭の良さは「ルパン三世」を彷彿させられるが、大体が「怪盗」って皆そんな感じだったわ。

 

人気作なので映画化もされた。『血塗られた墓標』(『 La maschera del demonio 』1960年 )、『白い肌に狂う鞭』(『 La frusta e il corpo 』1963年 )等のゴシックホラーで有名な、マリオ・バーヴァが監督した『黄金の眼』 (『 Diabolik 』1968年 )である。

 

ホラー映画のイメージの強いマリオ・バーヴァだが、そこはイタリアの娯楽映画監督。西部劇、SF、コメディと様々なジャンルの作品を監督している。この作品は、大物ディノ・デ・ラウレンティスをプロデューサーに、音楽にはこれまた大物エンニオ・モリコーネが当たり、主役のディアボリックに、後に『シンドバッド黄金の航海』(『 The Golden Voyage of Sinbad 』1973年 )で主人公シンドバッド(今の呼び方だとシンバッド)を演じたジョン・フィリップ・ロー。ライバル(?)のギンコ警部にフランスの名優ミッシェル・ピコリと言う布陣である。なかなかの面子なのだが、当時の評価は芳しくは無かった様である。後にマリオ・バーヴァ監督の評価が上がるにつれて、再評価されたとか。評価なんてそんなモンですよ。全然面白いですよ、コレ。ディアボリックの相棒で恋人でもあるエヴァを演じたマリサ・メルもセクシーだし。

 

そして、その本家『黄金の眼』公開の前年に制作された「ディアボリック」のパロディ作品が、今回紹介する『400人殺せ-怪盗ドレリック-』(『 Arrriva Dorellik 』1967年 イタリア )であります。何とも物騒で穏やかじゃない邦題である。原題の意味は「ドレリック参上」くらいになるのでしょうか?本来「Arrriva」は「Arriva」と「r」が二つの所を三つにしているのは、巻き舌感を出そうとしているのですか?あくまでも、イタリア語なんぞてんで分からない筆者の想像です。

 

本家「ディアボリック」は悪党相手の盗みがメインで、悪党を手に掛ける事は有っても、市民には決して手を出さない、と言う設定であるが、こちらの「ドレリック」は盗みもするけど、依頼を受ければ誰でも殺す。真逆だけど、まぁパロディだからね。本人は代々殺し屋の家系で、歴史的事件の裏で先祖が暗躍していたと謳っています。

 

金欠状態のドレリックが新聞広告で仕事の依頼を求めた所、或る人物から連絡が入る。それは、フランスのすべての「デュポン姓」の人間を殺して欲しいと言う、とんでもない依頼だった。フランス人のジャック・デュポンはブラジルで財を成した大富豪だったが、その全財産がフランス中の「デュポン姓」の人間に等しく分けられる、と言う事になってしまった。それを知った依頼者は、全財産を独占するべく、現存している400人の「デュポン姓」を亡き者にしようと企んだのである。

 

本作、コメディ映画の割にドジって殺人計画が失敗の連続、とかにはならない。バンバン殺人計画が実行されて行く。しかも、結構エゲツナイのだった。例を挙げると、串刺しマジックの箱に、電話ボックスと偽って標的を入れ、何も知らないマジシャンが、デモンストレーションで剣をグサッ。中から絶叫。この辺り、絶叫具合といい、マジシャンや観客の狼狽ぶりといい、結構リアルで、笑って良いのやらって感じである。

 

更には、大勢の「デュポン姓」の人間を集め、問題の遺産相続の話をした上で一室に閉じ込め、欲に目の眩んだ人々の殺し合いを、ピアノの弾き語りをしながら待つ、とか。今のコンプライアンスでガチガチの時代では、かなり厳しいのではなかろうか、と言う様な内容となっている。一応、コメディ演出はされているんだけどね。随分とブラックだねぇ。

 

主役のドレリックを演じたのはジョニー・ドレッリと言うイタリアの歌手兼俳優で、1950年代の後半から1960年代に掛けて、音楽祭で受賞したり、テレビの歌謡ショーの様な番組の司会をしたりと人気を博したスターだった。歌手で俳優でお茶の間でも人気、とくれば、日本の同時代のスター、故坂本九氏を思い出す。もっとも九ちゃんはこう言う役は演じないと思うけど。

 

当時は日本でもジョニー・ドレッリ(当時の表記は「ジョニー・ドレルリ」)のシングル・アルバムが発売されていた。それだけ売れていたって事ですね。ノリノリのテーマ曲「Arriva la bomba」で始まる本作。勿論、歌うのはジョニー・ドレッリ本人である。

 

本作では全身タイツ姿でドタバタを演じているドレッリが、実は実力派の歌手だとか、お茶の間の人気者だったと言う事よりも何よりも、筆者にとって一番以外(?)だったのは、『狂ったバカンス』(『 La voglia matta 』1962年 )や『女性上位時代』(『 La matriarca 』1968年 )等の作品で、主に1960年代に人気を博したカトリーヌ・スパークの二度目の結婚相手だった、と言う事である。そのカトリーヌ・スパークは、2022年4月17日に亡くなってしまいました。

 

監督はステーノことステファーノ・ヴァンツィーナ。有名監督の助監督を経て1940年代末に監督デヴュー。日本で劇場公開されたのは、『エロチカ海賊'73』(『 Il vichingo venuto dal sud 』 1971年 )と、社会派サスペンス『黒い警察』 (『 La polizia ringrazia 』1972年 )くらいか。

 

『エロチカ海賊'73』は、イタリアの靴メーカーに勤める主人公ロザリオがデンマーク支店長に就任。そこで出会った心理学を学ぶカレンと恋に落ち結婚するも、カレンがポルノ映画に出演した過去が有る事を知り…、と言う内容のセクシーコメディ。

 

『黒い警察』は、主人公ベルトーネ警部と、警察内部に存在する、犯罪者を非合法に抹殺する「黒い警察」と名付けられた集団との戦いを描いた社会派サスペンス。

 

セクシーコメディをソツ無く撮った翌年に、コメディ要素の全くない重苦しい雰囲気のサスペンスの佳作を物にする辺り、イタリアの職人監督の器用さが窺われる。コメディ映画を得意とする監督だが、案外『黒い警察』路線でも合っていたんじゃないだろうか。

 

息子のエンリコ・バンツィーナは脚本家に、その弟のカルロ・ヴァンツィーナは監督となった。1986年の9月末から10月の始め迄開催された「イタリア映画祭」で上映され、その後ビデオ発売、テレビ放映された『ドレスの下はからっぽ』(『 Sotto il vestito niente 』1985年 )は、兄弟で手掛けた代表作。

 

イタリアでは「ディアボリック」人気は今も健在で、2022年4月末から5月に掛けて開催された「イタリア映画祭2022」で上映された『ディアボリック』(『 Diabolik 』2021年 )は、『黄金の眼』以来の映画化。更に2022年には続編『 Diabolik -  Ginko all'attacco! 』も制作された。しかも、三部作になる予定とか。日本に於いて正式に劇場公開されるかは不明だが、せめてソフトくらいは発売して欲しい物である。ついでと言っては何ですが、『黄金の眼』『400人殺せ-怪盗ドレリック-』も発売して欲しい。も一つオマケに『エロチカ海賊'73』もお願いします。