フランケンシュタインの逆襲 ~立派な功績を残した人達のお茶目な一面~ | つれづれ映画ぐさ

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忘れ去られそうな映画を忘れ去る前に

第二次世界大戦が終わり、冷戦状態となった米ソ両国では、次世代の技術として、人工衛星や宇宙ロケットの開発が盛んに行われる事となった。映画界もその動きに同調し、1950年代に入ると、SF映画も未開の地の冒険物は徐々に少なくなり、宇宙を題材とした作品が増えて行った。

 

1957年に始まる米ソの宇宙開発競争以前から、アメリカでは、宇宙人を敵国ソ連に見立てた侵略SFが盛んに作られたが、1960年代に入ると、制作本数もその数を減らして行く。1960年代も半ば、侵略SFブームにも翳りが見えていた頃に登場したのが、今回紹介する『フランケンシュタインの逆襲』(『 Frankenstein Meets the Spacemonster 』 1965年 アメリカ )であります。

 

日本語タイトルは、イギリスのハマー・プロの1957年の作品と全く同じ。あちらは、後にドラキュラ伯爵役でスターとなったクリストファー・リーがモンスターを演じた、歴史的作品。本作の事は、筆者が子供の頃に読んだホラー映画関係の本で知ったんだけど、紛らわしかったねぇ。ポスターだかプレスシートだかの写真が載っていたので、別物だって事は分かってたけど。しかし、それから二十年以上も経って発売された書籍でも、プレスシートの写真に付けられた説明文は、ハマー作品と混同されていたのであった。やれやれ。

 

とある異星の宇宙船が地球に近付いていた。その異星の王女が率いる一行は、かなり深刻な状況に在った。母星は核戦争に拠り、彼女らの一行以外は全滅してしまったのである。因みに本作、紹介される際に「火星人」と解説されがちだが、本編中でどこの星から来たと言う様な言及は無いです。地球から打ち上げているロケットが「火星」探査ロケットと言うだけです。

 

女性は王女只一人。このままでは自分達種族は滅亡してしまう。そう考えた王女は、他の星の女性を攫って手下と交配させ、種族を維持しようと考えた。まずその前に、どっかに移住しようとかは考えないのか?とも思ったが、王女たるもの、種の存続こそ最優先課題だったのかも知れない。我々庶民とは発想が違うのだろう。

 

地球では、度重なるロケット打ち上げ失敗に憂慮したNASAの化学者達が、秘密裡にサイボーグを開発していた。人造人間なら生還出来なくても、まぁいいだろう、と言う事で。そのサイボーグ=フランク・サンダース大佐は、プレス相手の会見でも、そつ無く質疑応答をこなす出来栄えだったりするが、湿気のせいで、会見中にフリーズしてしまったりして、ホントに宇宙に行かせて大丈夫なのか?と不安要素も若干有るのであった。

 

フランクを乗せたロケットは、無事打ち上げに成功するも、迎撃ミサイルと勘違いをした王女一行の宇宙船に撃墜されてしまう。辛くも脱出に成功したフランクだったが、拉致計画が発覚するのを恐れた王女の命令で、抹殺対象となってしまう。

 

地球に降り立ったフランクの許へ迫る王女の手下。光線銃の攻撃で、顔の半分を損傷、人工皮膚は焼け爛れ、電子回路もイカレてしまったフランク。そのせいで、防御本能が強く働き、攻撃してきた相手には、執拗に攻撃を繰り返す狂暴性を持ってしまった。人造人間であるフランク大佐が暴れるから「フランケンシュタイン」か。

 

フランクの反撃を受け負傷した王女の手下は、同僚の手で宇宙船に運び込まれたが、王女は無情にも「ミスを犯した者はモルに始末させろ」と言い放つのであった。この「モル」が宇宙怪獣の名前。およそ知性は感じられず、狂暴そのものと言った感じ。しかし、ミスったから喰わせてしまえってのは、余りにもご無体な。数少ない母星の男、もっと大事にした方が良いのでは…。

 

フランクの着陸地点を割り出したNASAは、開発者のアダム・スティール博士と助手のカレンを現地に送り込む。その頃、その地プエルトリコでは、異星人に拠る地球人女性の拉致事件が起き、フランクもそれとは別に暴れていた。

 

と、この様な感じで物語が進んで行くのですが、ここ迄であらすじをほぼ全てを語ってしまったと言っても良い位に、本作の内容は薄いのである。その理由は、全体を通して、NASAのロケット発射映像や、アメリカ空軍の演習風景映像などの記録映像がやたらと多用されているからなのである。本編映像よりも、むしろこれらの古い記録映像の方が、過去のロケット発射実験や米軍の演習風景を見る事が出来て貴重かも知れない。案外、ミリタリーマニア要チェックな作品かも。

 

本作は元々、この手の映画のパロディ作品として脚本が書かれ始めたものの、プロデューサーが本気のSFホラーにしようと考え、手直しをしたりしている内に何となく企画が流れ、元ネタを考えた人も忘れかけていた頃、いつの間にか作られていた、と言う逸話をどこかで読んだ覚えが有るのだが、今回本稿執筆に当たり、色々探したものの、その記述が見つかりませんでした。と言う訳で、このエピソードに関しては、事実ではないかも知れません。

 

アメリカの業界紙「ヴァラエティ」1964年の紙面に、本作を「制作中」との記載が有るので、実際にこの当時に撮影していたのだろう。ただ、やはりネタ自体は少々古く感じるので、最初の企画が一回流れた、ってのはまんざら出鱈目でも無いかな、と思うのである。

 

本作、元々はコメディとして書かれたのだろうなぁ、と思われるのが、スティール博士と助手のカレンが、フランク大佐を探しに行くシーン。スクーターを二人乗りし、デート感覚で海岸沿いや街中を走る場面にその名残を感じる。BGMもリゾート感が出てるし。直前までは、結構深刻な感じの遣り取りをしてたってのになぁ。しかも割と長い。更に、全てが解決した後も、同じくスクーター二人乗りでデートをしている。この手の映画でラストに余韻を持たすのも珍しいと思う。

 

本作を監督したのはロバート・ガフニーなる人物。シネラマ映画『これがシネラマだ』(『 This Is Cinerama 』1952年 )に続く第二弾、『シネラマ・ホリデー』(『 Cinerama Holiday 』1955年 )のプロデューサー、ルイ・ド・ロシュモンの下で働き始めたのが、業界入りの切っ掛け。

 

「シネラマ」とは、1950年代から60年代に掛けて制作された方式の映画の事。三台のカメラで撮影し、上映も三台の映写機を使い、超ワイドスクリーンにて上映するシステムだった。日本でも大都市の大劇場では上映出来たが、ほんの極一部でのみの話。今の小規模のシネコンばかりの日本では到底上映不可能である。

 

ロバート・ガフニーは、そのロシュモン制作の『大西洋2万哩』(『 Windjammer: The Voyage of the Christian Radich 』1958年 )に於いて、「シネラマ」を発展させた「シネミラクル」と言う新方式のカメラの設計、製造、更に操作も手掛けると言う活躍ぶりだったが、この「シネミラクル」方式で撮影された映画は、この1本のみであった。

 

その後独立し、本作の制作会社でもあるセネカプロダクションを設立。主に短編ドキュメンタリーの分野のプロデューサー、撮影で活躍。国内外の映画祭で何度か受賞もしている。

 

劇場用作品を監督したのは本作のみだが、本作と前後する1962年と1968年に二本の短編ドキュメンタリーを監督している。1962年の『 An Answer 』は、当時の大統領と副大統領であるケネディとジョンソンが米艦隊を視察した様子を撮影した物。1968年の『 Bridge to Space 』は、ケネディ宇宙センター内を案内する内容。この時期のNASAと言えばアポロ計画。そこに使われたロケット、サターンⅤ(ファイブ)の打ち上げの様子を収めている。本作に、軍関係の記録映像が多用されているのも、この二本の政府広報の短編ドキュメンタリーの存在を考えると、妙に納得するのであった。

 

更に言えば、スタンリー・キューブリックとも親交が深く、キューブリック監督作『ロリータ』(『 Lolita 』1962年 )、『2001年宇宙の旅』(『  2001: A Space Odyssey 』1968年 )の撮影に携わっている。ナンカ、色々凄くない?

 

原案、脚本を手掛けたのは三人の人物。その内の一人、ジョージ・ギャレットと言う人物のみがクレジットされている。この人は、日本では余り馴染みが無いが、詩人で小説家で大学で教鞭を執り、賞を授けられる事多数、と言う経歴の人。本作以外にも数本脚本を手掛けており、その内の一本『若い恋人たち』(『 The Young Lovers 』1964年 )は日本でも公開されている。

 

もう一人は、R・H・W・ディラード。この人も詩人で小説家。やはり様々な賞を受賞している。この人も映画好きの様で、映画関係の書籍も執筆している。

 

そしてもう一人が、ジョン・ローデンベック。この人はカイロ・アメリカン大学(アメリカ大学カイロ校)=AUCで、英語と比較文学の名誉教授を務めていた人。因みにAUCは小池百合子氏が通ってアラビア語を学んだ大学である。この人、1964年にはこの大学で教鞭を執り始めている。と言う事は、やっぱり本作の元ネタは1950年代に書かれたんだろうなぁ。

 

と言う訳で、この様な知識階級と呼べる三人が集まって書いた話が当時良く有ったSF物。SF好きな少年が集まってワイワイやっている様な姿が想像出来て微笑ましい。

 

本作に登場する怪獣モル、フランク大佐=フランケンシュタインの造形は結構カッコイイ。フランク大佐なんて「キカイダー」みたいだと言ったら言い過ぎか?アメリカでは、それこそカルト作品として人気も有り、フィギュアも発売されている。日本でも、フィギュア付き限定セットで発売すれば、マニア心をくすぐって、案外売れるかも知れない。どこかのメーカーで発売してくれないだろうか?