暴行都市 ~没後10年となる或る監督を偲ぶ~ | つれづれ映画ぐさ

つれづれ映画ぐさ

忘れ去られそうな映画を忘れ去る前に

今回紹介する作品は『暴行都市』(『 Savage Streets 』テレビ放映題『サベージ・ストリート』1984年 アメリカ )であります。主役はリンダ・ブレア。『エクソシスト』で悪魔に憑りつかれる少女リーガンを演じ、当時世界で一番有名な子役となった人。元々子供モデル出身。テレビコマーシャルや、新聞・雑誌の広告に出ていたらしい。

 

『エクソシスト』(1973年)の大ヒットは、彼女のキャリアを色んな意味で一転させてしまった。一躍、超有名人となった事と、悪魔に憑りつかれた少女の姿が強烈過ぎた事で、「エクソシストの女の子」のイメージが付き纏ってしまった事である。或る意味、演技力が仇になってしまったと言えるかも知れない。その後は『エアポート'75』(1974年)への出演が、唯一の大きな仕事と言える位で、テレビ用作品への出演が続く。そこへ舞い込んだ企画が『エクソシスト2』(1977年)。しかし、この『エクソシスト2』公開の直後、麻薬不法所持で逮捕されてしまう。犬を引き取りに行ったところ、相手がドラッグディーラーで、無理矢理クスリを押し付けられた、と言う話も有るが、筆者にはその真偽は分からない。ただ、動物好きは本当で、現在は「リンダ・ブレア・ワールドハート・ファウンデーション」を設立し、虐待されたペットの保護と里親探しの活動を行っている。

 

禊を済ませたリンダは、その後も青春映画『ローラー・ブギ』(1979年)、ホラー映画『ヘルナイト』(1981年)と、忘れ去られない程度に間隔を開け、主演作品が日本でも公開されて来たのだが、遂に一大転機を迎える事となる映画が公開される。『チェーンヒート』(1983年)である。

 

スクリーン上でのヌード初披露となったこの映画は、1970年代から一部で人気の高い「女囚」モノ映画と言う事もあってか、スマッシュヒットを記録した。ここで完全に、リンダ・ブレアの今後のキャリアが決定付けられたと言って良いだろう。「B級映画専門女優」と言うレッテルが付いてしまった。何とも悲しい事である。

 

そして、その翌年の作品が本作『暴行都市』である。原題を訳せば「荒廃した街」とかそんな感じでしょうか。

 

夜の街をたむろする不良グループ達。その中には、ブレンダ(リンダ・ブレア)率いる女子グループや、ジェイク(ロバート・ドライヤー)率いる男子グループもいた。或る晩、ブレンダグループをナンパしようとしたジェイク一味は、ブレンダの妹ヘザーを車で引っ掛けてしまう。ブレンダ一行は、「アイツら、最近随分ハバ利かせてて生意気じゃん」って事で、路駐してあったジェイクらの車を盗んで乗り回し、車内にゴミをぶちまけるのであった。報復として、ヘザーはジェイク一味にレイプされてしまう。不良の姉貴の所為で、とんでもないとばっちりを食ってしまってます。

 

その後、酒場で偶然ジェイクらと出っくわしたブレンダ達だったが、当然の如く揉めて、ブレンダ側の一人が、ジェイクの事を拾ったナイフで切り付けてしまう。ヘザーがレイプされた時には、ジェイク一味の報復とは(何故か全く)念頭に無かったブレンダや仲間達も、流石に今回は報復を恐れるのだが「アイツらにそんな度胸無いって」とブレンダに言われ納得してしまうのである。イヤ、そこはもう少し真剣に考えろよ。この件にちゃんと対処していれば、後の悲劇は起きなかったであろうに。

 

偶然、二つの悲劇がジェイク一味の仕業だった事を知ったブレンダは、黒のレザーの上下を身に纏い、ジェイク一味に復讐を誓うのであった。ここでの着替えシーンはさながら峰不二子の如きである。ジェイク一味の根城を聞き出し待ち伏せし、罠を張り次々と仇を葬り去るブレンダ。最後の一人となったジェイクとの一騎打ちはなかなかです。本作でのジェイクのしぶとさとバイオレンス描写が、後述する、監督の次作に繋がったのだろうと思われる。

 

今回、コレを書くに際し、改めて本作を観直してみて、ジェイク役のロバート・ドライヤーと言う役者が狩野英孝に似てるなぁ、とか思って、ついついジェイクと書かず、狩野英孝と書きそうになりました。筆者、別に狩野英孝氏に対し、何も含む所はございません、と言う事をお断りしておきます。

 

ブレンダの聾唖(何故かその様な設定である)の妹ヘザーを演じたのは、リネア・クイグリー。本作撮影当時、既に25,6歳なんだけど、清楚なミドルティーンを演じている。本作の翌年『バタリアン』で赤髪のパンクねぇちゃん役で、堂々たる脱ぎっぷりで人気を得て、1980年代から1990年代に掛けて、B級ホラー映画ファンの間で有名となった人です。

 

この当時、その様なスクリーム・クィーンと呼ばれる女優が何人もいたが、その代表格の一人である。因みにスクリーム・クィーンとは、ホラー映画で何者かに襲われて悲鳴を上げる役の女優さんの事である。主役級の人も勿論そう言う場面が有るので、スクリーム・クィーンと呼ばれたりする事も有るのだが、リネア・クイグリーらの場合は大体が脇役で、犠牲者となり、お色気担当だったりするのである。マニアが彼女達を「発見」し、B級ながらもスターにしたのである。マニアの力を馬鹿にしてはいけませんな。

 

本作の監督は、ダニー・スタインマン。1966年、67年と二本の映画に役者として出演したのが切っ掛けで業界入り。1973年にポルノ映画『 High Rise 』で監督、脚本家としてデヴュー。その後三本程制作補として働き、1980年『恐怖のいけにえ』で一般映画監督としてデヴューした。

 

『恐怖のいけにえ』は、大昔に観た時は『13日の金曜日』の大ヒットの後だった事もあって、凄く地味な印象で、正直面白いとは思えなかった。が、近年観直したところ、意外や意外、案外面白いではないですか。勿論、地味な事には変わらないのではあるが。この映画は、問題(肝心)の、地下に棲む怪人物よりも、屋敷の主の方が完全にイカレている辺りが素晴らしい。演じたのはシドニー・ラシック。『アリゲーター』では、盗んだペットを売り捌き、売れ残りを下水道に捨て、結果としてワニに餌を与え続けていた、外道オヤジを演じていた。

 

『恐怖のいけにえ』は、全体を通しての登場人物は少ないのだが、その一人一人がなかなか良い感じである。冒頭に出て来た、主役のバーバラ・バックの彼氏(膝を故障したアメフト選手)が、ラスト間際になって(或る意味で)見せ場を作ってくれたりするので、ボーっと観ていてはいけなかったりするのである。しかしこの作品、ダニー・スタインマンの初の一般映画監督デヴュー作だったが、色々と揉めてピーター・フォレッグと言う変名で発表される事となってしまうのだった。

 

本作はそれに続く、再起を賭けた作品である。四年越しのリベンジは、前年『チェーンヒート』で復活の兆しを見せたリンダ・ブレアを主役に据えると言う辺りに、制作陣の微妙な期待感を感じるじゃないですか。日本では劇場公開はされなかったが、アメリカではそれなりに期待されたのではなかろうか。実際に、一部でカルトムービーとして人気が有る様で、前述のリンダ・ブレア主催の団体のサイトでは、『エクソシスト』だけではなく本作の関連グッズも販売していたりするのであった。

 

この後『新13日の金曜日』(1985年)を監督。本作の後、パラマウントから、1972年のウエス・クレイブン監督のデヴュー作『鮮血の美学』(『 Last House on the Left 』テレビ放映タイトル『白昼の暴行魔Ⅱ』)の続編の脚本と監督を依頼される。しかし、その企画が流れ、替わりに「新13日の金曜日」の監督、脚本の仕事を貰う事となる。前作『13日の金曜日完結編』でジェイソンに止めを刺したトミー少年が青年となるも、事件後精神を病み、舞台となる施設に入所する所から始まるこの映画は、ここ迄のシリーズ中で最多の犠牲者数を出すと言うサービスぶりだったが、「犯人がジェイソンではない」事が災いし、評価としては今一つに終わってしまう。結果として「 A New Beginning(新たなる始まり)」(原題に付けられていた副題)となる筈だったが、シリーズの次作でジェイソンをゾンビとして復活させる事で、シリーズ中での立場が何とも座りの悪い状態となってしまうのだった。

 

この後も、監督の予定は何本か有ったが、事故に遭い監督業を断念したと言われている。監督を辞めた理由の真相は筆者には分からない。が、この人、スタッフ、キャストからの評判がかなり悪い。なんか、結構ボロクソに言われていたりする。現場でよっぽど横柄だったんだろうか?その人物評が、監督・脚本家業の足を引っ張ったのだろうか?人格的に問題が有る人物でも、作品評価が高ければ続けられるのではないか、と思うのだが、この人のレベルでは微妙だったか。

 

『恐怖のいけにえ』では、異常なオヤジが元凶となり、本来善良に生きられた(かも知れない)者達は、悲劇の人生を送らざるを得なくなってしまうと言う不条理を、『新13日の金曜日』では、気の弱そうな青年が「ぼ、ぼ、ぼ、僕とメイクラブしないか?」などと、勇気を出して告ったのは良いが、アッサリ振られてしまい、しかもその直後に殺されてしまうと言う、人生の残酷さを描いていた。本作では、妹と仲間の敵討ちを果たした主人公は、仲間だった者達から辛辣な言葉を投げかけられ、去って行かれてしまうのである。

 

三本しか無い監督作(デヴュー作のポルノは除く)全てで脚本も書き(単独と言う訳では無いが)、この様な人生の残酷さを描いたダニー・スタインマンと言う人は、かなりシニカルな物の見方をした人だったのかも知れない。本人は「ホラー映画が好きだ」と公言していた様だが、もっと違う題材を与えられていたら違う評価を得られる可能性も有ったかも知れない。勿論、もっとボロクソな評価をされていた可能性も高いが。

 

一番人気の高い本作は、日本では劇場公開される事無く、『恐怖のいけにえ』は、パンフは作られてもチラシは作られず、『新13日の金曜日』は逆に、チラシは作られるもパンフは作られないと言う、微妙な扱いのダニー・スタインマン。筆者としては、2012年に亡くなったこの監督、みうらじゅん氏以外の人にも注目して欲しい。そう思っています。