ポゼスト 狂血 ~恐怖の大王の正体とは~ | つれづれ映画ぐさ

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忘れ去られそうな映画を忘れ去る前に

今回紹介する映画は『ポゼスト 狂血』(『 Besat 』 英語タイトル 『 Possessed 』 1999年 デンマーク・ルーマニア合作)です。タイトルはデンマーク語ですが、意味は英語タイトルと同じで「憑りつかれている」と言う意味。何に憑りつかれているのやら。日本での公開は2000年に入ってからになってしまったけど、本作は1999年の作品。1999年と言えば例のアレですよ、ノストラダムスの大予言。恐怖の大王ってヤツ。その予言で散々言われた、世界の滅亡をテーマにしたのが本作。どんな手で世界を破滅に導こうと言うのだろうか?

 

「ノストラダムスの大予言」と言われても、若い世代の人達には余りピンと来ないかも知れない。筆者世代は、五島勉の書いた本が一大ブームになり、子供の心に終末感を植え付けた、そんなイメージです。まぁ平たく言えば、世の中に様々な悪い事が起こって人類が滅亡する、そんなトコです。ブームの最中の1974年には、東宝でちょっとした大作映画も制作されてます。ヤバい内容なので日本ではソフト化はされていません。

 

1999年には、やはり終末モノで、シュワルツェネッガー主演の『エンド・オブ・デイズ』や、ノストラダムス本人を描いた、そのマンマなタイトルの『ノストラダムス』と言う映画も日本では公開されたが、正直殆ど盛り上がってはいなかったと思う。「ノストラダムスの大予言」などは、目の前に迫る2000年問題(2000年を迎えた途端、世界中のコンピューターがバグると言われていた)に較べると、単なる絵空事だったのである。その2000年問題も、ナンの問題も起こらずに過ぎ去ったのであった。

 

では、本作で描かれる「終末」とはどんな感じかと言うと、オカルト系の占星術で、古典ラテン語で「邪悪な星」と言う意味を持つ「ステラ・マーラ」と呼ばれる超新星が五芒星を結んで、悪魔が降臨するとか何とか。打倒悪魔を目的、と言うか教義と言うかにしている、解散させられたカルト教団の教祖の息子、ヴィンセント(演じるのはウド・キアー)が、狂信者なのか正義の味方なのかテロリストなのか、って感じのキーパーソン。そのヴィンセントが悪魔と目するのが、エボラ出血熱の様な症状を引き起こす未知のウィルス。と言うか、悪魔がウィルスの姿を借りているって感じか。

 

最初の感染者はルーマニアの少年。犬に噛まれたのが事の発端。じゃあ大元は犬か。『オーメン』でも犬がポイントだったしね。その少年が亡くなり、看護師の男性が感染させられ、その男性がデンマークにやって来る事で舞台はデンマークへ。その男性を追ってやって来たのがヴィンセント。このヴィンセント、医者でもあるみたいな事が言われていたので、その関係でこの事を知ったのか?ドイツ人だけど、ルーマニアに居たのか?どうも、ヴィンセントがどうやってその存在と発現場所を特定したのかが全く語られない。考えていなかったのかも知れない。

 

取り敢えず分かってる事は、次の者に感染する時は停電が起こる、って事。ちょっと意味不明。主な舞台はデンマークなんだけど、少年が住んでいたのはルーマニア。ルーマニアでは停電は当たり前の事、みたいなセリフが有ったんだけど、悪魔と停電?車も動かなくなったとも言っていたが。まぁイイか。電力事情が悪いって事は分かった。

 

ヴィンセントは、ウィルス(いや、悪魔か)は火に弱いって事で、カリウムとガソリンを混合させた強烈な火炎瓶を自作して、ルーマニアで少年が担ぎ込まれた病院に火を付けて、放火魔として追われている。正体はバレてなかったけど。本作の主人公はデンマークの若き疫学者。そこに放火魔を追う警察一行が絡み、サスペンス映画の趣きが有りーの、ちょっとしたアクションシーンも有りーの、で最後はホラーになる。

 

結局、ウィルスなんだか悪魔なんだか。どっちにも採れる気がする。サスペンス、スリラー、ホラー、と言うジャンル分けが難しいね。そう言う意味では観る者を混乱させ、明確な映画を好む人の受けは悪そうな気がする。訳が分かんない、って言われて。でも、この映画の持つ最大の魅力は、内容では無く醸し出す雰囲気、それに尽きるのではないだろうか。本作の原作本が在ったとして、この映画の雰囲気を脳内で再現出来るか、と言われたらまず無理だろう。そこが映画の魅力だと思うのであります。デンマークとルーマニアと言う、日本人には余り馴染みの無い風景は、異国情緒を刺激させるに充分な物が有ると思います。室内風景とかでも、ちょっとアメリカとは違う感じなんだよね。

 

そして、当時デンマーク映画界でブイブイ言わせていたのが、ラース・フォン・トリアー監督。本作の翌年には『ダンサー・イン・ザ・ダーク』でカンヌ映画祭パルムドールを受賞している。1984年の『エレメント・オブ・クライム』で劇場用長編デヴューを飾り、以降話題作を作り続けつつも物議を醸して来た(主に本人の人間性の問題かと…)トリアー監督が、1995年に「ドグマ95」宣言を行う。映画制作に際して、10個の制約を課すと言う物である。例えば、自然光の中、ロケーションのみで撮影するとか、そんな感じ。まぁ、段々と厳密ではなくなって行ったみたいだけど。

 

そのトリアー監督の映画制作会社ツェントローパが、本作の制作会社。その事で、本作の監督アナス・ロノウ・クラーロンは、「トリアー監督に見出された」と紹介されていた。実際に映像を観る限り、その影響下にあるんだろうなぁ、と感じる。が、2012年に、クラーロン監督は引退宣言。今のデンマーク映画界はダメである、と。トリアー監督の事も名指しで非難していた様で。その後は、以前から書いていた小説に創作活動を移していたが、2022年新作映画を監督。本格的に復帰するのだろうか?

 

本作の監督アナス・ロノウ・クラーロンのスペルは「Anders Rønnow-Klarlund」。アンダースってデンマーク語読みだとそうなるのね。本作の音楽を担当したのは、マーティン・ロノウ・クラーロン(Martin Rønnow-Klarlund)。身内だと思うんだけど、詳細不明。こちらはその読み方で良いの?

 

ヴィンセント役のウド・キアーは、アンディ・ウォーホル制作の『悪魔のはらわた』でフランケンシュタイン博士を、『処女の生血』でドラキュラを演じたり、トリアー監督の諸作品や、更に先程挙げたシュワの『エンド・オブ・デイズ』にも出演していたり、数え上げればキリが無い程あちこちに顔を出しているのだが、日本では某社の歯ブラシのCMで、当時まだアイドル然としていた奥菜恵に「奥まで気持ちイイ」などと言わせていた変態歯科医(いや、言わせたのはCM制作陣だけど)を思い出して頂ければ「あ~、あれか」と思い出す方も居るのではないでしょうか。そんな事無い?

 

昨今は、色々と世界的に不穏な空気が漂って来ていますが、よもや世紀末から20年以上も過ぎて、「いや~ゴメン、遅れちゃって」なんて言って「恐怖の大王」が来るのだけはお断りしたい。