未来元年・破壊都市 ~理想郷は案外身近に在ったりするのかも知れない~ | つれづれ映画ぐさ

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忘れ去られそうな映画を忘れ去る前に

タイトルだけで観たくなる映画って無い?海外作品の場合、オリジナルタイトルをそのままカタカナ表記しただけ、ってタイトルも多いと思うんだけど、何となく味気無い感じもするのよ。まぁ、ヘンテコな日本語タイトル付けられるよりはマシなんだけどね。読みをカタカナ表記しても意味が分かりづらい、直訳しても味気ない、そんな時にカッコイイ邦題が付いていると、ついついそれだけで観たくなってしまったりするじゃない?しない? 

 

と、言う事で今回紹介するのは、筆者お気に入りタイトルの映画の一本、『未来元年・破壊都市』(『Ravagers』1979年 アメリカ ) であります。原題は「破壊者」「略奪者」と言う意味。邦題の「未来元年」は、何を指しているのか?「元年」とは、何事か重要な事が始まった年の事を指す言葉。はたして何が始まるのだろうか?

 

本作は、全世界が壊滅した後の地球を舞台にした、所謂、終末(ポスト・アポカリプス)モノと言われるジャンルである。邦題の方が簡単に内容を想像出来るでしょ?因みに、その手の代表格『マッドマックス2』よりも、本作の方が制作年が早いので、その影響下には無いです。

 

本作は、ロバート・エドモンド・アルターの「Path to Savagery」と言う小説を原作としている。日本ではほぼ無名の作家と言って良いかも知れない。1960年代にほんの数年作家として活動しただけで、1966年に四十歳で急逝してしまった。活動期間の短さも知名度の低さに影響を及ぼしているのだろう。この小説は遺族により、死後の1969年に出版され、映画は更にその十年後の公開である。

 

監督はリチャード・コンプトン。他に『ソルジャー・ボーイ』『夢のサーフシティー』『ランサム』など。筆者は劇場未公開の『ランサム』しか観ていないのだが、筆者がテレビで観た時のタイトルは『悪魔の山 殺人者ランサム』。てっきりオカルト系のホラーかと思ったら、田舎町の汚職市長を脅迫する男の話だった。後で知ったけど「ランサム(ransom)」って「身代金」の意味だからねぇ。一見すると人の名前の様なタイトルに見事に騙されました。悪いタイトルの例です。昔は情報が少なかったから、タイトルだけで映画を観るって事も多かった。だからこそ、観賞意欲をそそる様な名タイトル、迷タイトルも生み出された。段々とそう言うタイトルも少なくなって行ってしまうのかも知れない。そう思うと寂しい限りである。

 

大まかな内容はと言うと、核戦争後の世界を舞台に、主人公フォークが、殺された妻ミリアムの求めていた理想郷「ジェネシス」を目指し旅する話である。「ジェネシス」とは、木々には果実が、海には魚が、と言う土地の事。以前はごく当たり前だった世界だが、今の荒廃した世界のどこかに存在するのであろうか?

 

フォークは、妻を殺した「略奪者」と呼ばれる暴力的な集団の襲撃を逃れながら、道中様々な人達と出会う。仲間を持たずミリアムと二人で暮らしていたフォークからすれば、豊かな生活をしている人たちである。軍の施設の跡に住んでいた「軍曹」。物々交換で成り立つ、巨大な洞窟の集落で知り合ったフェイナ。沖に停泊している巨大な廃船に、ボスのランの下、多くの仲間達と暮らしているブラウン。フェイナ、ブラウンは、安定した生活を送っているが、「ジェネシス」と言う不確実な理想郷に憧れ、同行を願い出る。「軍曹」はフォークを上官と思い込んでいるので同行は当然と思っているが。しかし、あくまでも「ジェネシス」は想像上の理想郷でしかない、と思っているフォークからすれば、危険な放浪の旅に同行させる事は気が引けるのである。

 

フォークの旅はミリアムへの追悼だろう。別に本気で理想郷を探している訳でもないのではないか?同行者は逆に鬱陶しいのではないだろうか?などとも思うのである。

 

しつこく追って来る「略奪者」をどうにか出来るのか?「ジェネシス」探しはどうなるのか?と、そんな感じです。少しネタばらしをすると、林檎の実が生り、海にも魚が戻って来てます。邦題の「未来元年」の意味は、大体分かるよね?新しい未来は既に始まっているのです。

 

本作、時代設定が1991年と言う事になっている。原作の設定は分からないが、オリジナルポスターにそう書いてある。日本版ポスターも当然それに倣っている。1991年だと映画公開の12年後の世界。原作が書かれた頃なら、1991年なら30年後位なので丁度良かったと思うんだけどね。映画は小説が書かれてから20年位経ってしまっているので、2010年辺りにした方がリアルだったんじゃないかなぁ?

 

何故そんな事を感じるかと言うと、フォークのセリフに、「戦争が有ったのは、6歳の頃だ」「電気を見るのは子供の頃以来だ」と言うのが有るのね。フォークはどう見ても中年。戦争っていつの話?って思っちゃうのよ。映画公開時よりも前に戦争が起きたってなると、映画の話だとしても不自然じゃない?もっと時代を後にして、主人公にもうちょっと若い役者を起用した方が…と思いました。「1991年」だなんて時代をハッキリさせなきゃ良かったのにねぇ。

 

では、そのフォークを演じたのは誰かと言えば、リチャード・ハリスであります。『カサンドラ・クロス』『オルカ』『黄金のランデブー』『ワイルド・ギース』等々の大作、話題作に数多く主演、出演。晩年には、『ハリー・ポッター』シリーズの1作目と2作目で、魔法学校の校長先生を演じていた。本作の時点では既に49歳。オッサンなのであります。その人が「6歳」とか言っちゃったら、40年位昔の話になってしまうのである。

 

フェイナ役はアン・ターケル。本格的な女優デヴューとなった『殺し屋ハリー/華麗なる挑戦』(1974年)で共演したリチャード・ハリスと、その年に結婚。その後も1982年に離婚するまで『カサンドラ・クロス』『黄金のランデブー』と本作で夫婦共演している。筆者にとっての代表作は『モンスター・パニック』だけどね。

 

「軍曹」役のアート・カーニーはポール・マザースキー監督作『ハリーとトント』でアカデミー主演男優賞を受賞した名優。

 

ブラウン役のウディ・ストロードは、近年『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウエスト』の題でリバイバル公開された、セルジオ・レオーネ監督作『ウエスタン』の冒頭、駅でハーモニカ(チャールズ・ブロンソン)を迎え撃つ三人組の殺し屋ガンマンの一人を演じた人。

 

廃船のボス、ランを演じるのはアーネスト・ボーグナイン。何に出ていても、どんな役柄を演じていても、一度その顔を見たら二度と忘れないであろうと言う、強烈な個性の持ち主。良い役から悪い役まで様々な役柄を演じた、名脇役中の名脇役。『ポセイドン・アドベンチャー』で、ジーン・ハックマンの牧師と並ぶ、重要な役割の刑事役を演じたと思えば、『北国の帝王』では悪役として、主役のリー・マーヴィンと死闘を繰り広げる鬼車掌役。ヒーロー側から悪役まで演じる事が出来るってのは、やっぱり良い役者だよね。

 

盲目の弁護士役で、ほんのチョットだけ登場するのはシーモア・カッセル。ジョン・カサベテス監督デヴュー作『アメリカの影』の端役で役者デヴューし、制作補も務めた。その後もカサベテス映画に何本も出演。カサベテス監督作『フェイシズ』でアカデミー助演男優賞にノミネート。本作では、物語の本筋には全く絡む訳でも無く、直ぐに退場となるんだけどね。特別出演なのだろうか?

 

そこそこ豪華なメンツを揃えた映画なんだけど、日本でのロードショー公開は地方でのみ。現在はソフトも発売されていない本作。ソフト化の際に、間違っても違うタイトルに変えない様にお願いしたい。